朝 起きたら居間のテーブルの上に小宇宙が広がっていた。
その日、お餅をつくのは知っていたし、手伝おうと気持ちはあったのだけれど、まちがえて前日にしっかりと飲んでしまい
宿酔いでなかなか起きることができず、部屋で苦しんでいる頃 家族は早朝からゴゴゴとなる機械でお餅を作っていた。
甥がいたずらしたお餅は、ぐにゃぐにゃにいじられたままのかたち。
ごめん、と思いつつ特にすることも(もはや)ないようだったので、お餅には触れずに黙って写真を撮り、いい天気だねと ごまかしつつ、甥を愛でようと思ったら家族を代表して甥に叱られた。
ああまたやってしまった…と、はじっこに小さく座って小宇宙をぼんやりと眺め、ひとつ思い出した。
年末に自分のルーツを見直すきっかけがあった。
祖父は戦時中 満州に出向していて、祖父のことが好きで好きでしかたがなかった祖母は、満州まで夫を追いかけた。
娘が産まれ、戦争が終わって、祖父は大きなマントに娘をくるみ、船に乗り3人で九州に足を下ろした。
九州から今 私が住む場所に家を建て、桶職人になり、その後3人の子どもをもうけ生活を営んだ。
一番下の、はじめての男の子が、私の父。
小さな歴史。
でも、もしも、祖母だけが帰国して、祖父が満州から帰って来られなかったら、当然 父は産まれていないわけだし、そうなると私も産まれていなかったことになる。
時代に生きるみんなが、偶然 産まれてきた、かたまりなんだなと思う。
もしかしたら私は、別の人だったかもしれない。肌の色すら違っていたかも。
かみなりみたい。どこに走るかわからない電流がたまたま落ちて、穴があいた。
その穴に、道から拾い上げた種を植えたら、どんな木になるだろう。
雨に打たれて風に吹かれ、水を糧をもらい、星空を見上げて時に日陰を作り、年輪を増やす。
偶然だけど、せっかく産まれてきたのだから、のびのびと おおらかに生きられたらいいな。
よれよれの宿酔いのせいか、ファンタジーなことを考えて更に具合が悪くなり、健康だった昨日を懐かしみ
部屋に戻ってロールカーテンをしめ、光をゆるくした。
車の鍵がついたキーホルダーには小さい鈴がついていて、少し揺らすと小さく鳴る。
目をつぶる。
鈴の音はいつか見た、ドーナツ屋の先のホテルから見る光を思い出させた。
最近 きらきらとした街の光が、人のまたたきそのものに見える。
またたきの音は、鈴のささやかな、ちりちりとした音に聞こえる。
最後までお読みくださって、ありがとうございました。
追伸 :
このコラムを書いた翌日の朝方、親友に子どもが産まれました。