いま私の頭の上には車が走っていて、
たくさんの人が歩いている
顔をあげれば
上の人達の足の臭いがしてくるようだよ。
丸ノ内線、銀座駅を降りて。
この空調の効いた地下道はどこまでも続いているような気もするし、
あっさり
ぷっつりと終わりがくる気もする。
私は髪の毛をポニーテールにして、
格好悪いスーツを着て歩く。
仕事が決まらないことより何より、
こんな幸の薄い格好で歩き回っていることに気がめいってしまいそうです。
派手を散らかして歩いてるようなおばさんとすれ違う。
一瞬私の顔を見て、
またすぐに前を向いて歩いて行ってしまった。
おばさんの目に映る私は
就職難に苦しむ若者に見えただろうか?
いや、わりとその通りなんだけど、
別にそれに苦しんでるわけじゃないって。
ん?
何に苦しんでいるんだっけ?
わからなくてでもこういうこと考え始めると急に周りの音が大きくなって聴こえてきて頭がわーってなるんです昔から。
強いタバコを吸って頭がくらくらする感じに似てる。
立ち止まる。
ダメだ落ち着こうと思って息を吸って、吐いて
なんとなく顔を真上に向けてみる。
そこには当たり前だけど地下道の天井があって
天井を見つめながら楽しいこと考えてみる。
地上の、
私の真上には きっと男の子が立っていて、私の方を見下ろしている
地上の男の子と目が合った感じがする
男の子は私に手を差し伸べてくれる
私はその手を掴みたくて
掴んだら引っ張ってくれるような気がして
私は右手を上に向かって伸ばしてみる。
地下道を進む人たちが、
私を不思議そうな目で見ていることは知っている。
でもそれは気持ちのいいことだ。
この噓くさい私が、私は今、好きだ。
こんなふうにしていると、
何が本当なんだか少しの時間分からなくなる。
地上の男の子は、相変わらず私を待ってくれている。
そっちは蒸し暑いだろうに。
私は男の子の優しい表情まできっちりと見とめることができる。
耳を澄ませば地上の蝉の鳴き声も聞こえてくるようです。
あ。
でも蝉の姿を私は今年、一度も見ていない。
それでも東京のビル群には毎日蝉の鳴き声が響いている。