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2F/当番ノート

なぜジャグリングについて書きたかったのだろう

当番ノート 第19期

連載最終回です。
連載全9回で追うテーマをきちんと決めて連載を始めれば良かったと今は思っています。
私は一年前に、大学に出す卒業論文として『ジェイ・ギリガンについて語るときに僕の語ること』と題した、エッセイのような論文を書きました。ジェイ・ギリガンというのはアメリカのジャグラーで、アヴァンギャルドな、「考えるジャグラー」です。既存のジャグリングの型を疑い、壊し、新しいジャグリングを実際にやってのける数少ないジャグラーたちのうちの一人です。卒業論文では、その彼がやっている一連の活動の、ジャグリングにおける価値を書き出してみました。

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出来上がってみれば、およそアメリカやヨーロッパの一般的な大学では認められなさそうなセミエッセイが完成しましたが、ゼミの先生(文芸評論家の加藤典洋氏)には自由にさせてもらい、おかげで論文は受理されました。その論文執筆を通して、(といっても、今だから言えますが、書くのに使った時間自体は正味10日間くらいのものでしたが)ああ、ジャグリングをテーマにして書くのって悪くないなぁ、などと思ったもので、それを続ける媒体として、書くジャグリングの雑誌:PONTEを創刊したのでした。
さて今、その頃の「ジャグリングについて書きたい」という気持ちは実のところなんだったのだろう、と考えました。
かっこいいものを書きたいな、という気持ちはあった。なんか、面白いことを言ってみたいぞ、という気持ち。
たとえば、なぜジャグリングって楽しいんだろう、ということを、根本的に文字で語り起こしてみるような、そういうこと。誰もそんなことを文字にして、たとえば、2万字の文章にしようと思う人なんかはいない。もしそれで「なぜジャグリングは楽しいのか」ということを、個人的な語りを通して一般的なレベルまで説明できて、みんなが納得できるような形で書けて、「ああ、こりゃあ確かに、そういうわけでジャグリングは楽しいのかもしれない」と思わせることができたら、こんなこといっちゃなんですが、一目置かれるような気はしていました。

でもそこまで考えてまた思い返してみると、私が約1年前に「ジャグリングについて書きたい」と思った一番の動機は、一年間のイタリア留学で自分の身に起きたことを一度文章にしておきたかったから、だったような気がします。
それは、19歳の夏にイタリアに渡って経験した一連のことというのが一個人として大変に面白く、人に話したい性質のことだったからです。要するに私は、土産話がしたかったから、「ジャグリングについて書きたい」と言っていたも同然だったのです。ですがそれに関しては、書くジャグリングの雑誌:PONTEの、「ジャグリングがつなげるもの」と称したコーナーで書く場所をすでに自分の中で持っていたために、ここの連載で一体何を書いたらいいのかはずっと不透明でした。結局私は、ジャグリングについて何を書けるんだろう、と未だに思う。
ですが実は、私は常にジャグリングについて、書く素材に囲まれているのだと思う。
ジャグリングについて書くことには、まだまだいろいろな方向性があります。なぜなら、ジャグリングをやる人で、何かを書くことに燃える人というのはあまりいないし、そもそもジャグラーの数が少ないからです。ジャグラーの数は、たとえば野球に関わったことのある人の数よりは圧倒的に少ない。食べ物を口にしたことのある人の数に比べたら、まるで微々たるものです。だから当然、ジャグリングというのはまだ「全然書かれていない」分野です。書くことがないどころか、言ってみれば、書いていないことの方が多すぎるくらいかもしれない。
ですがジャグリングをやっていない人にも何かが面白く伝わるようにジャグリングについてのことを書く、というのは、なかなか難しい。多くの人にとっては、ジャグリングは自分の人生に関係がないからです。もし関係があるとしたら、たとえば自分が知っている現象、プログラムされた様々なパターンで噴出する噴水を見て、なんで物が飛び交う様は見ていて面白いんだろう、ということがジャグリングと結びつくときとかそういう時じゃないかと思います。それか、多くの人が見たことのある、大道芸人にまつわる話かもしれません。サーカスの話かもしれない。ただ、そういう話は、既に書いている人がいる。あとは、単純に、旅行をしてきた話とか、ジャグリング以外の部分に感情移入ができる話です。ですがジャグリングについて書く、というからには、ジャグリングそのものに関する議論も書いてみたいな、と思うものです。とにかく、大道芸の話でも、サーカスの話でもない、純粋なジャグリングそのものに関する執筆業というのは、まだ前例があまりなくて、一方で見当のつかない面倒な作業でもあり、一方で、地平の広い、まだ邪魔するものがなにもない、わくわくする土地でもあります。

ジャグリングについて書きたい、と思う人が増えて欲しいとか、そういうことはあまり思いません。増えたら増えたで面白いでしょうが、別に私はジャグリングのコミュニティのために何かを書きたいわけではなくて、あくまで自分が書きたいから書きます。そして自分の中から出てくるもので何か書こうとだけしていると、たまに、自分にはもうジャグリングで書けることなどないのではないかと思います。
ただここまで書いてみて分かったことには、私はただただ題材を「探そう」としていなかっただけのようです。
連載はこれで終わりです。なんだか、全然書きたいことを書けている気がせず。
私はこれからもいろいろなところで、「ジャグリングで」書いていきます。
まだまだ、量が足りない。ああ、足りない。

とりあえず、雑誌の編集長として、Twitterで連続ツイートをしていますので、これからはそちらでお会いしましょう。@PONTE_aoki
また書くジャグリングの雑誌:PONTE本誌、公式サイト上でも、ジャグリングについて書いています。

連載を読んでくださった皆様、ありがとうございました。

青木 直哉

青木 直哉

ジャグリングの雑誌「PONTE」編集長。
好きなものは無印良品とことばとエスプレッソ。

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