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2F/当番ノート

星空書簡2-月に行ってみたら

当番ノート 第29期

こんばんは。
あなたは、この1週間、空を何度見上げたかしら?

大学生のころ、よく読んだ詩の中に、長田弘さんのものがありますが
「最初の質問」という詩の冒頭は、
「今日、あなたは空を見上げましたか。空は遠かったですか、近かったですか。」
というものからはじまります。最初の質問の一番最初なのです。
それぐらい、空を見上げるということは、私たち一人ひとりが、
毎日を生き物らしく生きていくのにとても大切なことなのでしょう。

 「秋は夕暮れ」と清少納言が枕草子の中で歌いましたが、私も夕暮れの
空はたまらなく好きです。もちろん、夜明け前の何とも言えない色も、
高い青空も、そしてもちろん星空も大好きなのですが、一番心がガシガシと
つかまれてしまうのは、陽が落ちてそこからだんだんと宇宙に向かって窓が
開かれる時間、深い蒼を帯びる時間です。ブルーモーメントといいます。

 今日はそんな時刻に、すでに十三夜の月が東にぽっかり浮いています。
先週の手紙で、あなたが今夜、十三夜のおだんごをつくっていたり、買ったりしていたら
嬉しいです。満月よりも、少し欠けた月のほうが表情がありますよね。
(さらには、下限の月になるにつれ、月はどんどんなまめかしく感じます。)

 さて、そんな月ですが、あそこにいってみたら今日の地球はどんなふうに
見えるか考えたこと、ありますか? 私たちからみて、あれだけ大きく見える
月ですから、あそこに立ったら、地球はもっと大きく見えるわけです。そして
「欠けて」いるのです。月も地球も太陽の光をあびてそれを跳ね返すことで
光っているので、どちら側から太陽の光を受けているか、で地球も満ち欠けする
わけですね。今日、あそこに立ったとしたら・・ 地球は、右側が細く光る
三日月ならぬ、三日地球のように見えるのです! 月には大気も、地上光も
ありませんから、満天の星空に青い地球が浮かびあがることでしょう。
 もう一つ想像してみてください。月から地球が満地球に見えるとき、つまり
私たちから見ると新月のとき・・ その満地球は、私たちが眺める満月の明るさに
比べて何倍ぐらい明るいでしょう? 地球の直径は月の4倍ほど。そうすると
見かけの表面積は、ざっと16倍。けれども、月はごつごつの岩石であるのに対し
地球は、海と大気に覆われるがゆえ、太陽からの反射率が月よりはるかに高く
なります。 そうすると、ざっと60倍ぐらいは明るいのではという計算が
あります。 満月の60倍明るい、満地球!!

 いつかそんな風景を見ることがあるでしょうか。でも、なんだか行かなくても
月の砂漠に座り込んで、遠い地球を眺めている姿そのものを想像するだけでも
十分なように思います。
 そうやって遥か遠くから、再び自分たちを見る視点を与えてくれる。それが
私が月や星がもつ、一番の力のようにも感じています。

 来週のお手紙のころには、オリオン座流星群がやってきます。次は流れ星の
ことを書きますね。ぜひその日まで、毎日表情が変わっていく月を眺めて
いてください。 どうぞお元気で。

十三夜

髙橋 真理子

髙橋 真理子

宙先(そらさき)案内人。星空工房アルリシャ代表。星つむぎの村共同代表。
出張プラネタリウム、ミュージシャンとのコラボレーション宇宙ライブ、星や宇宙に関する企画、執筆、大学講義などをやっています。近著「人はなぜ星を見上げるのか―星と人をつなぐ仕事」(新日本出版)

Reviewed by
akira kusaka

夕暮れは宇宙への扉、「ブルーモーメント」。十三夜の今夜、その扉を開いて、まるで月の上で楽しんでいる様なお手紙。自分の視点を変えるだけで、宇宙がさらに広がるお話です。

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