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2F/当番ノート

星空書簡8-すべての人に星空を

当番ノート 第29期

こんばんは。なんと今朝は雪景色でした。11月に甲府が白く覆われるなんて、54年ぶりだそうです。
昨日は、地域のおそうじのとき、枯葉を集めて焼き芋を大量につくって子どもたちと楽しく、ホクホクと
食べていたのに。目の前の山は美しい紅葉のピークを迎えていたのに。

でも、実は、雪は大好きなのです。雪が降る前の雪のにおいが特に好き。そして、一晩にして、世界を変えてしまったかのようなあの圧倒的な力に、そして、シーンという音が聴こえてきそうな独特の静けさにひかれます。私が生まれた日の朝は、東京は記録的な大雪だったそうで、私の雪好きはそこからきているのだろう、と勝手に思っています。

そんなふうに、秋をかけぬけ、あっという間に冬がきてしまいました。まもなく日の入りの時刻は、1年で一番早い時期を迎えるし、夜9時過ぎには、「冬のダイヤモンド」と呼ばれる明るい星々が全容を表しているのですから、私たち人間がじたばたしていても、確実に季節は巡ってきます。地球が自転するのも、公転するのも、容赦なくどこまでも続くのですからね。

夜が長くて、明るい星が出そろう今の時期の星空のおすすめは、やはり冬のダイヤモンド。オリオン座を取り囲むように、一等星たちが大きな六角形を作っているのです。オリオン座の右下にある白い星・リゲルからスタートして、時計まわりにぐるりと。長いことつきあいのあった友達で、何年もプラネタリウムにおける創作活動なども一緒にやってきたはずの人が、ほんものの空にはじめて冬のダイヤモンドが自分で探せた!!といって興奮してたときがありました。え?今? というのが正直なところだったけれど、でも、ホンモノの感動度の大きさに、あらためて気づかされたときでもありました。ぜひ空に大きなダイヤモンドを見つけて、これからの季節の大切な人へのプレゼントにしてほしいです。

しかも、ダイヤモンドの中には、いろんな物語がつまっているから、そのこともぜひプレゼントのネタに。
一つは、それぞれの星たちがどれだけ遠くにあるか、ということ。おおいぬ座のシリウスは、全天でもっとも明るくぎらぎら輝く星だけれど、それは比較的私たちに近いところにいるから。9光年。光の速さで進んで、9年のところ。つまり、いま、9歳の子どもが生まれたときの光を私たちは今夜見てる。9年前にラジオでしゃべってたことは、電波にのって、もうシリウスには届いているって思うと、なんだー近い、という感じがしますが、私たちが普段つかうスケールにすると、85兆kmというわけのわからない数字になります。やっぱり星はとんでもなく遠いのです。しかも、そこからスタートして、プロキオン11光年、ポルックス33光年、カペラ42光年、アルデバラン66光年と、時計回りにたどっていくと、面白いように、奥深いほうへと行きます。お話している相手の誰かの年が必ずありそうだな、というところがまたいいのです。
そして、最後、リゲルにくると、862光年! 862年前は、日本は平安時代。
星を見るということは、時間旅行のことでもあり。ほんとうに不思議な気分になります。

そしてもう一つの物語。
ダイヤモンドの中には、星の一生のさまざまなステージがあるということ。オリオン座の三ツ星の下には小三ツ星と呼ばれる場所があり、肉眼でみるとぼやっとしているのがわかるところ。そこは、オリオン大星雲といって星の赤ちゃんが次々と誕生している場所です。星は生まれてやがて死んでゆく存在。若い星は、青白く輝き、温度がとても高い。ダイヤモンドの中では
リゲルやシリウスがそれらにあたります。私たちの太陽は、実はちょうど、中年ぐらいで、黄色っぽい色。ダイヤモンドの中では、カペラが太陽と同じような色なので、ずっと離れて私たちの太陽を見ればあんな感じなのね、ということです。おうし座のアルデバランやオリオン座のベテルギウスなど、赤くて明るい星たちは、まもなく最期を迎えそう。特に、ベテルギウスは、もうまもなく超新星爆発を起こすかもしれない、と言われているのは、有名な話なので、聴いたことがあるかしらん?
その超新星爆発という現象こそが、私たち・生命のもとをつくったものなのです。
宇宙のはじまりにはなかった、私たちの体をつくる元素は、みんな星の中で、さらに、超新星爆発とともに生み出されたものばかり。その話をすると、「ああ、だから星を見ると気持ちが安らぐのねえ」とおっしゃる方が多くいます。
ほんとうにそうかもしれない、と思うのです。私たちはあそこからきて、あそこにかえってゆく。

さらに言えば、ダイヤモンドの中ほどに、かに星雲と呼ばれる美しい星雲があって、それは、1054年に観測された超新星爆発の残骸と言われてます。その残骸たちは、ガスとなって広がり、やがて、新しい星になって、その周辺に惑星をつくっていくこともきっとあるはず。そんな壮大なサイクルの中に、私たちのいのちは組み込まれていて、宇宙の片隅の小さな星の上で、いのちのリレーを脈々と続けている。
なんて、愛おしいのだろうと思います。

そういう気持ちを毎日忘れないで生きていられたら、といつも自分で自戒を込めつつ、いろんな人たちにお話しています。特に、ホンモノの星空を見ることのなかなかできない人々に星空を届ける「病院がプラネタリウム」っていうプロジェクトで、病児や難病の方々にお話していますが、彼らをケアする人たちにもすごく知っててもらいたいな、という想いが強いです。言ってしまえば、世界中のみんながそういう感覚を持って生きていることができたら、とてもいいのに、と思うのです。

思いついて書き始めたお手紙だけど、しばらくお休み。最後かもって思ったら、つい力が入ってしまいました。(笑) でも、いつでも星はあるので、今度は星をみて、何か思い出して、ついでに、私の話も思い出してくれたらな、とひそかに願ってます。元気でいてください。バイバイ。

冬のダイヤモンド

冬のダイヤモンド

髙橋 真理子

髙橋 真理子

宙先(そらさき)案内人。星空工房アルリシャ代表。星つむぎの村共同代表。
出張プラネタリウム、ミュージシャンとのコラボレーション宇宙ライブ、星や宇宙に関する企画、執筆、大学講義などをやっています。近著「人はなぜ星を見上げるのか―星と人をつなぐ仕事」(新日本出版)

Reviewed by
akira kusaka

私たちに届けられた最後のお手紙。夜空に輝く星の光は、遠い過去への道標。星を見る時間は、過去との会話の時間かもしれません。全てはこわれて、始まってを繰り返し、僕たち人間も、その壮大な宇宙のサイクルの一部なんだと、改めて気づかされるお話です。星空のお便りは終わりましたが、夜空の楽しみ方をたくさん教わったお手紙でした。

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