大学院生だった頃の僕には、学校帰りに一人でよく行く映画館があった。
郊外のショッピングモールに入っていた映画館で、いわゆるシネコンてやつだ。
大学から車で30分くらいの距離が考え事をするのに丁度良く、わざわざそこまで出かけていたのを覚えている。
これは学部生の頃からの週間みたいなもので、18時に終わる講義を受けていた僕らは、授業後にレイトショーを見に行っていた。皆はどうか分からないが、月に一度のその日は講義どころではなく、終始僕は時計を気にしていた。
映画を見る前の腹ごしらえは、決まってピザが食べ放題のイタリアンレストランだった。映画好きの友人からあらすじを聞きながらの楽しい食事だ。帰りの車中では互いに考察や感想を言い合って、来月見る映画を決めたりして、名残惜しさを感じながら友人が家まで送ってくれた。
今思えばそれだけが楽しみで、僕らは月曜5限の授業を受けていた気さえする。その友人達と最後に見た映画は、トム・クルーズ出演のアクション映画だったっけ。
そんなことがあって、みんなが就職して一人大学院に残ってからも、その映画館にはよく行っていた。郊外だからかレイトショーはあまり客がおらず、それをいいことに、声を出して笑ったり、膝を抱えながら見たり、ときには涙を流したりと、自由気ままに見ていた。
それなのに一人で帰る車中では、友人と行っていた頃を思い出して「一人で見る映画も好きだけど、映画はやっぱり誰かと見たいな」なんて、わざわざ寂しさを感じていたように思う。
そこで沢山の映画を見たはずなのに、今となってははっきりと覚えていなくて、当時の自分の状況や記憶だけがよみがえってくるのはなぜだろうか。
それでも唯一、DVDやサウンドトラック、原作の小説までも購入した映画があった。
ハワイ島のホノカアという街が舞台の映画「ホノカアボーイ」。
ロケ地巡りなんてしたことが無かった僕が、初めてその土地まで足を運んだ映画だ。
今も昔も、この映画以外には無い。
映画を見ているときからすでに、スクリーンの向こう側にどうしようもなく行きたくなった。
きっと、自分のいる境遇から逃げだしたかったのだろう。自分探し、みたいなこともしたかったのだろう。考えることをやめて全部放り投げたい、そんな時期だったのだろう。序盤の優柔不断な主人公に、自分を重ねていたんだ、きっと。
目に飛び来んでくる景色は、全てが優しくて暖かくて自然体で、だけどどことなく切なくて寂しくて。昔からずっとそこにあって、それが受け継がれながら今もなお続いていて、実話に基づいているからこその力強さを、スクリーンから感じた。
ありきたりなことだけれど、ここで暮らしたら「自分はなんてちっぽけな存在なんだろう」とか思うのだろうかと、そんなことを考えながら見ていたように思う。
主人公の台詞を借りるならば、「ただ違う風景の中に身を置きたかった」のだ。
僕がその街を訪れたのはそれから5年後、2014年6月のことだった。