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2F/当番ノート

まわれ、愛のメモリー

当番ノート 第34期

001-fin
それでも地球は回っているのだな。っと思う事がしばしある。

みなさんは松崎しげるが唄う「愛のメモリー」という曲をご存知だろうか?
きっとたいていの人は知ってるだろうと思う。もし、知らない人がいたら一度は聞いてみるべきだ。

その「愛のメモリー」であるが、私の生まれる何年も前に発売された曲であるにもかかわらず、物心ついた頃には耳に馴染んでいたし、思春期に聞いてた小室ファミリーやジャニーズ音楽のように私の身体に染み付いた一曲である。というか、何回も何回も聞き過ぎてテレビで歌われる際には「またこの曲…」と思ってしまうほどで、歌っている松崎しげるについては歌手というより黒すぎててオモシロい人という認識で、その歌手のユーモアばかりに目がいき、知らず知らずのうちに「愛のメモリー」は名曲という認識なく私にとってはただのギャグに成り果てた。(こんなことを書くととても失礼な奴と思われるかもしれないが、テレビなどのメディアがこのような扱いをするものだからいけないのだ)
おなじように感じている人も少なくないはずである。

7月のある日、音楽やら動画やらがいろいろ見れる便利な赤いページYoutubeでたまたま聞いていたのだが、あれ、おかしいなぁ。ともう一度聞いてみる。おろろろ、おかしいな。そしてもう一度、そして何べんも聞く「愛のメモリー」。

こ、これは、ななななんてすばらしい歌なんだ!
これこそ人生のため、生きるために作られたすばらしき名曲ではないか!
なななななんでいままでこの歌の良さに気付けなかったのだ!!

たかたかし先生の人生賛美のキレイな歌詞、馬飼野康二先生の壮大かつドラマチックな作曲。
そして歌うシゲルマツザキ。
黒く光った顔に白く輝く歯、歳の割に黒く激しい毛髪量、まるで昆虫のように黒光りした革のスーツ、生命力。目尻にできた濃ゆいシワはやさしさを、つぶらな瞳の奧には少しの恥じらいを感じさせるが、佇まいや歌声は堂々としている。
あぁ、この曲はこの人しか歌えないんだ。この人はこの歌を歌いたくて歌っているんだ。
そして驚いたことに1977年の「愛のメモリー」より2015年の「愛のメモリー」の方が絶対的にいいのだ。
発売されてから約40年間「美しい人生よ」と堂々と説得力を持って唄い続けることは容易なようで実はとても難しいのではなかろうか。

地球は回っているのだなぁと。ここで私は思うのである。

それはもちろん「わぁ!今まさに地球が回っているわよ~!」という体感ではない。
昔理科の先生が言っていたからきっと、というか絶対に地球は回っていて(否、本当は回っていないのかもしれないが)、だから時間が流れているのだろうし、だから窓からカーテンを揺らす気持ちいい風が入ってくるのだろうし、だからあらゆることが循環しているのだろう。
地球が回っていなかったら、腹が立った人は永遠に腹が立ったままだし、何かを恨んでる人は許すという経験ができないだろうし、悲しみに暮れてる人はその悲しみから抜け出すことはないだろう。愛し合った人々は愛する人と共にこれからを生きることはできないだろうし、愛がおりなす素晴らしく美しいサムシングは生まれないだろう。そしてシゲルマツザキはこんなにも長い間「愛のメモリー」を歌うことはなかっただろうし、ずっとギャグだと思っていた曲に何十年越しに深く感動することなんて絶対になかっただろう。

あははははっ。

いったい何を言っているのだろう…と我ながら呆れるがそれでも大真面目にこう思ったのだからしょうがない。

つまりは愚図の私はこう思う。
いつか心が震えるような美しい絵が描けるかもしれない。
まだ見ぬ素敵なあなたに会えるかもしれない。
憧れのあの人と対等に冗談を交わせる日が来るのかもしれない。
2回目のアパートメントの記事はもっとまともなオモシロいことが書けるかもしれない。

恐ろしく後ろ向きな私が、そのように思うのである。
図々しくも私はまだいろんなことを諦めてないのかもしれない。

地球は回っているのだなぁ。

namazu eriko

namazu eriko

1985年、八ヶ岳出身。
神奈川県在住。
絵/テキスト/デザイン
たまに酒場のカウンター

8月は荒木町アートスナック番狂せのグループ展「八月、番狂せ、カレーとTシャツの庭」に参加しています。

Reviewed by
木澤 洋一

namazu erikoさんの連載が始まりました。第一回目は松崎しげるの「愛のメモリー」について。
とても自然体で、そしてとても気持ちの良い内容でした。

個人的な事だけど僕はとてつもなく受け身の人間なので、普段目にする文章や活字は大体不自然か、なにか知らないけど機嫌を損ねているか、それか易しくないものばかり。なので今とても気分がいい。この方は次回はどんな事を描いてくれるんだろう?既に楽しみだ。

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