昨年末、連日にわたるラジオの通販番組の「カニいかがですか?」攻撃に私は曝されていた。
曰く、「お送りするのは、氷の重さは除く正味のカニの重さです」とか、
曰く、「年々水揚げ量が減り、ご用意するのが大変なんです」とか、
曰く、「水揚げ量が減っているので、近年ますます高値になっているんです」とか、
曰く、「そんな貴重なカニを3キロに加えて、もう1キログラムおつけします」とか、
曰く、「これだけのお値段と量でお届けできるのは今年で最後になるかもしれません」とか、、、、、
来る日も来る日も以上のような事を聴かされ続けたのであった。そうして、聴かされる度に
「何故、日本人は年末になるとカニを食べたがるのか」
と売れない新書のタイトルのような事をほぼ強制的に考えさせられていたのだった。実にくだらない。
そう言えば、うちの母も年末になるとカニを買ってしまう奇癖の持ち主であった。
年末の帰省に際して、
「母よ、何故にあなたは年末にカニを所望するのか?」と問うてみた。
返ってきた答えは
「え、だって、年末になるとカニ食べたくなるじゃん」
との事だった。実に情けない。
我が母ながら、理由になってない。
しかし、この理由なき答えに妙にリアリティを感じてしまい納得してしまったのも、また事実。
どうやら日本人は年末になると理由もなくカニを食べたくなるというマヌケな民族性を有しているようだ。
ここで上記したラジオからの情報を再度まとめなおして、我々のカニ生活の世界的状況を確認してみたい(すごく限定的な情報だけども)。
「年々水揚げ量が減っており、
それに加えて需要も高まり、値は上がるし、
そもそもカニを確保するのが
厳しくなってきているのだけども、
そこを何とかして今年もカニをお安く提供することができました、カニどうですか?」
という事になる。
率直にバカなのか?と思う。
資源を回復させるという考え方はないのだろうか?
しばらく我慢するという事ができないのだろうか。
激しく腹が立ってきた。
腹が立ってある事を思い出した。まずは以下の写真をご覧頂きたい↓
「ほぼカニ」である。
この「ほぼカニ」というカニカマと私は2017年6月に出会った。年末カニ食べたい族に対する怒りが、この商品の事を思い出させてくれたのである。
魚肉100%で「ほぼカニ」なのである。
驚嘆すべきテクノロジーではないか。
味、風味、食感、身の裂け具合とか、
実際にほぼカニと言って差し支えないレベルである。
その驚嘆のテクノロジーが惜し気もなく投入されているにも関わらず、「ほぼ」と言う冠をかぶらざるをえない、それが「ほぼカニ」。
このネーミングにはあまりにも多くの想いが込められているに違いない。一介の消費者にははかり知れぬ物語が「ほぼカニ」にはつまっているのだ。たぶん。
最初から偽物として生み出される、その悲しみ。
「カニが食べたい…でも…」と言う庶民の儚い想いにそっと寄り添ってくれる優しき偽物。
嗚呼、カニカマよ
永遠の2番手と言うなかれ
嗚呼、カニカマよ
誰がカニを騙れと教えしや
カニを騙りて食われども
君をカニと言う者はなし
嗚呼、カニカマよ
思わず謳ってしまいました。
思わず謳ってしまうほどに、カニカマと言う食べ物はブルースだと思う。存在に悲しみを宿している。
どこまでいっても偽物、と言う悲しみ。
しかし、本物のカニより偽物のカニカマの方が「カニであろうとする想い」は濃く、強いのだ。
本物は本物である事にあぐらをかいているから。
偽物の方が本物たらんとし、
かえって「そのものの本質」に迫ると言うことである。
私はそんなカニカマと言う食べ物が好きだ。
おそらく自己を投影してしまうのだろう。
カニカマは私だ、そして私はカニカマなのだ。
あれ、おかしな流れになってきた。
本題に戻す。
年末カニ食べたい族はカニカマを食べるべきである。
かに道楽も「カニカマ道楽」と名乗り直すべきだ。
そんな事したら、今までのカニ食文化が破壊されてしまうという批判があろうかと思う。
いっそ、そんなものは跡形もなく壊れてしまえ!
とラディカルな事を敢えて言いたい。
まず、何世代か「カニカマ」を食い続けて、カニ食文化を地上から消滅させる。そうした暁に人類はカニなる食材と再会を果たせばいいのだ。その未来では、海で獲れるカニは「カニかまっぽい食材」として認識されるであろう。その世界においては、カニが偽物になるのだ。ははは、ザマーミロ。
私はそんな未来を夢想する。
いつか、カニカマが本物になる未来を。
悲しいかな、日本人はカニのみならず絶滅しそうな鰻やマグロも食い続けようとしている。
実にけしからん事だ。
黒マグロの初競りにキャーキャー言ってるなど、愚の骨頂。真夏に完璧に空調された部屋で精をつけるといって鰻を食べるなど、アホの極み。
現実を見よ!!
私は「ほぼ鰻」や「ほぼマグロ」の出現を期待している。テクノロジーってのはそういう為にあって欲しいと思うのだ。
偽物が本物を駆逐する。
そんな報いを人類は甘んじて受けなければならない時が来る…かもしれない。
とにかく、「ほぼカニ」はうまい。