Film by Takahiko Watanabe
昨年の5月に、東京で催し物をした。
ムリウイという特別な場所があった。
その空間で作りたいことにしっくり来るものを探りながら、その日その時間の外枠として必要なことと、骨組みと、衣装を用意する。
「塔」という曲のミュージックビデオのために衣装を作って以来、よく歌を聴いているSatomimagaeさん(http://satomimagae.jp)と、彼女とよく共演しているギタリストの桜井智広さんが揃って音楽を担当してくれることになった。
ムリウイで歌が聴けたら素敵だろうなと個人的にずっと思っていたので、それが叶ったことがとても嬉しかった。
妹である黒井汐美に東京で踊ってくれないかと唐突に頼み、私が少しずつ投げた言葉を解釈し踊りを組み立てているのを見て、事象が私の手を離れ始めた、これでいい、と思った。
何かわからないものが少しずつ形を得ていくのを、じっと見守るように。
いろんなことを頼みたい人に頼んで、委ねて、流れに任せるようにしてその時間を過ごした。
ライブとも、ショーとも、インスタレーションとも言えるような形容しにくいパフォーマンスになった。
見た人が、それぞれの呼び方をしてくれたらいいなと思う。
むかしのある時、おそろしく綺麗なものを見て、それはあまりこの世のものと思えない感じがした。
一瞬のその景色に、天国を見るようだった。
それに近づくことができようとできまいと、その美しさがそのまま美しくあってくれるだけで、十分に幸せなことで、ほかのことはもうあまり意味を為さなかった。
衣装を作っている間、なぜだかその時のことをよく思い出していた。
自分の思う、生きることの手ざわりのようなものを現したかった。
私たちは別の時間を生きる、永遠に眼差しを交わせない相手とも、なにかを通して繋がりうる。
誰かの魂の一部やその名残が瞬くのをとらえ、自らの奥へ溜め込みながら生きていると思う。
意志を持って誰かにうったえかけることだけでない、生きることによるあらゆる面が、どこかへ影響をもたらすから。
そうして自らもまた、未来の誰かの世界を形作る一粒になる。
そういう意味で、誰しも孤独ではないと知ることができるし、そう信じている。
どこかの誰かに、ふとした気配のように温度が届いたなら。
Photos by Soh Ideuchi
よみびとしらず カフェ ムリウイにて
ぬう 黒井岬
うたう Satomimagae+桜井智広
おどる 黒井汐美
いる 藤田北人
二ヶ月間の連載も、あっという間に最終回になりました。
今はカナダで勉強しながらふわふわ過ごしている身だし、ちょうど一年前にアパートメントに書いていた頃よりも力の抜けた文章になるんじゃないかな、と思っていたのですが。そうでもなかったな。
ときどき行き詰まったりしながらも、思うことを自分の中に都度掘り下げて毎週書くことができて幸せでした。
心境にあてはまる言葉がほかに見当たらないので、一年前の連載の最後と同じ言葉で締めくくります。
お読みいただいて、どうもありがとう。
ご縁があったなら、またいつかどこかで。