はや・さ【早さ・速さ】
①動きがはやいこと。またその度合い。
②時刻・時期が早いこと。
テンポ【tempo】
(時間の意)
①楽曲が演奏される速度。
②速さ。速度。
-『広辞苑 第七版』より抜粋 -
幼い頃の私はお風呂に入ることが苦手だった。
ご飯を食べた後はそのまま横になって
意識の底へと沈んでいくほうが私には心地よくて、
早くお風呂に入るようにと何度言われても
どうしてもお風呂に向かう気にはなれず、
毛布に包まりながら駄々をこねたりしていた。
私たちは日常の中、
様々な速さに囲まれて生きている。
目に入ってくる光も
耳に流れてくる音も
肌に触れる感覚も
全てが速さを内包している。
歩いたり走ったりしていた私たちは
今では秒速300メートルで空を飛ぶことができて、
1分もあればあたたかいご飯を食べることができるし
コンマ数秒の誤差で世界中と会話をすることだってできる。
時間を支配したかのような私たちは
それでも実際のところ、
そうした様々な速さに自らを合わせて
窮屈になりながら生活をしている。
点滅する信号に合わせて駆け足になったり、
人混みに飲まれてだらだらと歩いたり、
大人になんてなっていないのに成人式に出席して、
まだ一人でやりたいことがあるのに結婚をする時期だと言われる。
それぞれが心地いいと感じる速さは違うはずなのに、
それらは絶対的な顔をして私たちの行動を制限してくる。
たまにはそんなルールから
自由になってみてもいいのではないだろうか。
あなたがいちばん心地いいと感じる速さで、
テンポで生きてみたっていいのではないだろうか。
必要なものは何にもなくて
ただあなたが心地いいと感じる速さを
意識するだけ、感じる心を持つだけでいい。
まずは日々の生活の中から
あなたの好きな速さを集めてみる。
豆の膨らみを確認しながら
少しずつお湯を注いでコーヒーを淹れること。
パンにじりじりと焦げ目がついていくこと。
その上でバターが少しずつ溶けていくこと。
片手にマグカップを持ちながら
ギリギリまで目で文章を追いかけること。
空を見上げながらくるくると回って
寄り道をしながら帰ること。
そうして好きな速さが集まったら、
今度はそれらを意識しながら過ごしてみる。
平日の少しの間だけでもいい。
休日をずっとその速さで過ごしてもいい。
それらはきっとメトロノームのように
あなたにあった正しいテンポを
そっと思い出させてくれるだろう。
一人暮らしをするようになって、
私はお風呂が大好きになった。
ご飯を食べてすぐにではなく、
仮眠を取ってから夜遅くに入ったり
そのまま眠って朝早くに入ったり、
自分のテンポで動くことによって
その行為自体が苦手だったのではなかったのだと
そんなことに気付くことができた。
あなたの好きな速さで
あなたの好きなテンポで、
せめて休日だけでも
できればあなたの人生を。
さあ、明日はどんな速さで生きていこう。