入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

constantaのお客さん

当番ノート 第41期

お客さんと一緒に踊る

昨日は美女と野獣の舞台だった。
今シーズン初めての上演で、今月に後2箇所違う街で公演がある。
IMG_2198

私達の街の劇場Teatrul National de opera si balet Oleg Danovskiでは
毎回温かい拍手で迎えられる。
昨日もスタンディングオーベーション。
客席に明かりがついた時、主役はお客さんだと思った。
毎回同じ場所に座ってるおばあちゃんが昨日も来ていた。
お客さんの雰囲気、それは舞台にダンサーにとっても大きな影響がある。
影響というより 一緒にこの空間を創っている共演者のような気持ちだ。

自分を信じて踊ろうとすることは、共演者、お客さんを信じて踊ることなんだなと思う。
その場を信頼して踊る。そこで起こることを受け入れる。
そうすれば、テクニック的な失敗も失敗ではないんだなと思う。
何かを信じきれなかった時の方が踊りが踊りで無くなってしまうんじゃないかと思う。
FullSizeRender美女と野獣での私の衣装

今回の私の役は、演技をする場面が多く、毎回の掛け合いがその時その時で全然違うのでその場にどう存在するかに焦点を当てて踊ってみた。
この人格だったらどういう風に反応するか、それを感じながら演じることはとても楽しかった。
思いもよらない反応を自分がする時があって、私じゃない人格が一人歩きしているようだった。

踊り終わった後、ふと夏休みに地元のバレエ教室の発表会に参加したことを思い出した。
先生、友達、家族、後輩、沢山の人に囲まれた舞台は本当に温かく安心して踊れる場所だった。
踊りを家族に先生に届けれてよかった。

私はこうやって自分を観てくれる人達がいたから今まで踊り続けてこれたんだなと思った。

コンスタンツアの温かいお客さんたち
今シーズンも彼らと一緒に踊ることを楽しみに
毎回の舞台を味わいたい。

合田 紗希

合田 紗希

倉敷市出身  
ルーマニア黒海近くの劇場でバレエを踊っています。
ビールとcafeと海が好きです。

Reviewed by
moto

コンスタンツァは黒海に面したルーマニアの港町で、古くは古代ローマ時代に詩人オウィディウスが追放された町だ。その理由はまだ分かっていないが、恋愛指南の詩が少し過激だったんだとか。

その追放から2000年の時を経て、コンスタンツァ一帯はその詩人に相応しい明るく開放的な地域となった。
夏のビーチでは老若男女が音楽に合わせて昼夜を問わず踊る。ルーマニア人の心は山にも広々とした平野にも、そして海にも宿る。

"客席に明かりがついた時、主役はお客さんだと思った。"

音楽や演劇や舞踏や、舞台と客席を媒介して営まれる凡そ全ての芸術は、演者と観客との対話によって完成するのだろう。その街にはその街にしか成立し得ない、その場限りの「作品」があるのだと思う。

"自分を信じて踊ろうとすることは、共演者、お客さんを信じて踊ることなんだなと思う。"

合田さんは踊りを通じて観客と、つまり街と対話をしている。それは、2000年前のオウィディウスの歓喜や悲哀に想いを馳せることでもあるだろう。

オウィディウスは追放されて暫くは嘆き悲しんだが、やがて地元の人々と心を通じ、現地の言葉で詩を紡ぐようにもなったと言う。

21世紀のコンスタンツァの街の劇場に、今夜も明かりが灯る。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る