小学校のときに、中学受験の塾に通ってました。クラスが成績によって13個とかに細かく分かれてて、マンスリーテストっていうのが毎月あって、テストの点数によってクラスがあがったりさがったりするとても顕著な競争社会でした。目に見える優劣にすっかりはまっちゃって、毎回いい点とらないと、って塾に対してわりと意気込んでいた小学生だったんです。
テストでいい点をとるには、満遍なく勉強しとくのに越したことはないんですけど、勉強してきたことを遺憾なく発揮するために1ミリもほかの思考がテスト中に発生しないような絶品の集中力が必要って思ってました。
テスト、四教科あって、あいだの休みが10分あるんです。その10分のあいだに塾の友達ととてもうまくしゃべれると、問題を解くときにすごく集中できる、っていうおまじないみたいなのが自分の中にあって。だから、10分のあいだに友達と楽しく盛り上がれる小話みたいのを事前に用意しておいて、お互い笑いながら休み時間を終えられたという成果を得ることができたときは、テストでいい点がとれたんですよ。友達からしてみると意味わかんなかっただろうし、なんだか失礼だったなって今は思えるんですけど。
塾に通っていたせいで、放課後小学校の友達と全然遊べなかったから、友達関係に不安があって、その不安をテスト中は一時的に解消するためにその10分に託していたんですね、おそらく。なんていうか、10分休みのあいだに後腐れなく現世に別れを告げて、テストは全然別の世界にとびこむ、みたいな気持ちだったんです。
でも、大人になればなるほど思考と生活と社会は地続きだってことを知るようになりました。仕事なんてそもそも人間関係によって成り立ってるし、1人で解決する子供のころのテストみたいな存在なんてあんまりないし、立ち向かうべき事案があっても頭のどこかで帰りの電車の乗り換えとか夕食になにを食べるかとかをこそこそと考えるようになってしまいました。
テストで良い点をとることで、のちのちの人生になにかいいことが起きたかというとそういうのはあんまりなかったんですけど、10分休みを境にすっぱりと世界と自分を切り離せたあのときの感じって結構良かったよなぁ、って思います。今は、すっかりいろんな邪念が身についちゃって、ああゆう感じのことはもう訪れないんだろうなあ、ってわかってるけど、もう再現できない子供のころの謎の習慣、たまに懐かしく思い出します。