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2F/当番ノート

3ヶ月前の朝、ベッドから起き上がれなかった私へ

当番ノート 第46期

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当時のあなたは、この文章を見つける余裕はないかもしれない。それでも人づてに届く可能性を0%にしないためにおくります。

朝、ベッドから起き上がれなくなったとき、ひとりでなんとかしようとせず、職場に連絡を入れ、産業医のもとへ行ったこと、偉いです。でも頭の中は「大したことないと判断してもらって、復帰して、迷惑を掛けたぶんを早急に取り戻さなきゃ」でいっぱいになっていませんか。

仕事にも家庭にも迷惑を掛けている罪悪感を必要以上に背負って、パニックになって、焦って、自分の状態も周りの様子も見えなくなっていませんか。

しょうがないです。あなたは、他者に迷惑を掛けてはいけないと刷り込まれた時間が長かった。迷惑を掛けることが悪いことばかりじゃないという知識を得て、他者から迷惑を掛けられることは迷惑と捉えず「頼ってくれて嬉しい」と思えている今でも、他者に迷惑を掛けないことが正しいと思っています。

「それは違う」と言うかもしれません。でも悲しいかな、自らをその正しさで縛り付けています。他者に対して寛容でありたいと思うのに、他者から見たら他者である自分に対して、中途半端に接しています。その中途半端さは、結果的に周りと接するときにも滲み出ています。

少し休んで回復したとしても、また同じようにベッドから起き上がれなくなります。PCを見ると吐き気が止まらなくなります。「ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」「お気遣いありがとうございます」「大丈夫です」を連呼しながら、スマホでできる作業をがんばって進めて、充電の減りの早さにげんなりします。

休むことの優先順位を上げて下さい。「仕事は巻き取ります」と同僚が休むことをお膳立てしてくれているのに、責任感と罪悪感を履き違えて仕事をやっていたらみんなに失礼です。

「他の人から遅れをとってしまう」「自分は他の人よりも貢献できていないから」

他の人の地図を見て走り、自分の現在地をないがしろにしていても、どこにも辿りつきません。しばらく心地よく走れている気がしても、事故ります。あるいは結局同じところで転びます。

休んで、怪我を見て、適切な治療をしつつ、なぜ転んだのか、どうすれば避けれたのか、今後同じようなことで転ばないためになにができるのか、どういう身体の使い方がいいのか、足りない筋肉はなにか、そのために何からはじめるのか、それを設計するのが今のあなたの仕事です。

きちんとしたい自分がいるならば、この仕事をやりきったと言えるようしませんか。大丈夫です。あなたが発達するために休みは必要です。寝る子は育つし、休める大人も育ちます。

今日、産業医のもとに行ったあなたは、泣きました。「迷惑を掛けているのが申し訳なくて」と言っていました。3ヶ月前よりは、自分も先生のことも見えていたと思います。ちゃんと自分にもやさしくできて小さな一歩です。

ただ一点蛇足とわかってお伝えしておくと、涙を流したからと言ってすべて綺麗さっぱりするわけではありません。むしろここから地道な暮らしがはじまります。ここで着実に歩むことを捨てたら、3ヶ月後涙を流してさっぱりする心地よさを求めて今日と全く同じことでくよくよします。それは私にとって喜ばしくないくよくよです。

前向きなくよくよを肯定するためにも、くよくよの質にはこだわっていきましょう。それでは、お休みなさい。

木村 和博

木村 和博

いきづらさに執着しつつ、おどおどしながら顔を上げはじめました。

1991年生まれ。
劇作家/編集者/ライター
2019年4月より平田オリザ氏が主宰する劇団”青年団”の演出部所属、今のところほとんど幽霊部員。

NPO法人soarが運営するウェブメディア「soar」編集部メンバー。

Reviewed by
向坂 くじら

回復は断続的にくりかえし起こるものなのかもしれない。上がり下がりを重ねるうちに、すでに他者になっていたかつての自分への手紙。あるいは未来の自分からの手紙。

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