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2F/当番ノート

味わうを通り過ぎる

当番ノート 第46期

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惹きつけられる書き出しを探して、動く親指は油断ならない。自分が味わっていない出来事について、ぽちぽちと打ち、なんだか生活と向き合った気になってしまう。

Uver Eatsの手数料が無料だったとき、マクドナルドをよく食べた。グランベーコンチーズを頼み、口に流し込んだ。

「厚みのある100%ビーフに、2種類のチェダーチーズとスモーキーなベーコンを組み合わせた、リッチな味わいの一品」と商品紹介ページに書いてある。

控えめに言っても10個くらいは食べたはずなのに、「2種類のチェダーチーズ」や「スモーキーなベーコン」もそれらを組み合わせた「リッチな味わい」も堪能できていない。味わうことを通り過ぎている。

毎日湯船に浸かる。浴槽の蓋を開けて、片足づつ入れ、そして身体を沈める。ちょうど良いあたたかさが身体を包む。力が抜けて思わず口からほっーっと息が漏れる。一瞬、物哀しくなる。水圧で身体の輪郭を取り戻して、思っていた以上に自分の身体は小さいと知る。

このままあたたかいお湯に溶けて、抜かれた湯栓から排水溝に吸い込まれて、暗いトンネルを彷徨って、浄水場をくぐり抜けて、やがて川にたどり着き、やがて海にたどり着き、太陽にうなされて、蒸発して雲になり、そして重さを持った雨となり、身体の輪郭を忘れかけている誰かに落ちたい。

喉が乾いた。あたたかいお湯で身体から頭をほぐして出た通り過ぎるグランベーコンチーズと味わう湯船。

これから出張で沖縄に行く。ゲストハウスに泊まるのだが、そこに湯船はない。あたたかさで身体を包めない。でも、仮にシャワーすら無かったとしても、蒸発して消えてしまうわけではないから、まぁ、大丈夫。普段の習慣からは離れてしまうけれど、だからこそ、湯船以外での味わう時間は増える気がする。もしかしたら暑くて、うるさくて環境に適応するのに必死でそれどころじゃなくなるかもしれないけれど。そうしたら国際通りにあるマクドナルドでグランベーコンチーズ食べよう。

木村 和博

木村 和博

いきづらさに執着しつつ、おどおどしながら顔を上げはじめました。

1991年生まれ。
劇作家/編集者/ライター
2019年4月より平田オリザ氏が主宰する劇団”青年団”の演出部所属、今のところほとんど幽霊部員。

NPO法人soarが運営するウェブメディア「soar」編集部メンバー。

Reviewed by
向坂 くじら

すぐに通り過ぎ、耳ざわりのいいことばでごまかすことのできる自分への、通奏低音のような不信。それがうるおって、ゆるむ瞬間。通り過ぎたと気づくとき、はじめて立ち止まることができる。

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