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2F/当番ノート

午前3時33分、アパートメントにて

当番ノート 第46期

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まだ私は、他人と向き合う準備ができていない。だから誰にも会いたくない。それは目やにがついているからでも、鼻毛が出ているからでも、自分の息が臭いからという理由でもない。

朝、外に出て、呼吸のしづらい暑さに朦朧としながら、仕事に向かう。電車が来る直前に自販機で割高なお茶を買ってしまう。電車にしばらく揺られると寒暖差がつらくて目をつむる。

マンションの一室にあるオフィスに着き、いくつかmtgに参加する。あー、いつから「ミーティング」を「mtg」って書くようになったんだろ。「PDCA」も「効率化」「イシュー」も私の口には似合ってないや。

ある目的を実現するために成長する。そのために、楽しみながらやるべきことを積み重ねていく、はずが、未来も現在も過去も全部通り過ぎて、自分の身体の大きさも忘れて目の前の空気を轢いていく。目が硬くなって、頑なになって、肩凝って、猫背安定して、呼吸浅くなって、目線斜め下が固定ポジション。前を見ることも胸を張ることも目を見ることも、情報量が多くておどおどする。

勝手に凝り固まっておどおどして、斜め下のポジションをこれまでの境遇のせいにして、「しょうがないや」と言いつつ恨みを積もらせる。

だからアパートメントにお声がけいただいたんだと思っている。

「あなたの凝り固まった身体に贈り物。はい、存分にごろごろしちゃってくださいアパートメント。自由にこの部屋使っていいです。ただ週1で住み心地の感想をなんからの形にして置いておいてください」

住みはじめて1日目。はじめての一人暮らしで眠れず夜更かし。目を開いて、ごろごろしながら、凝った身体を役に立たない言葉でほぐす。

正しい日本語、語尾は同じものを繰り返さない。「話し言葉」を「書き言葉」に変換、この記事で達成したい目的はなにか、想定読者は誰で、読んでもらった後どんな状態になってほしいか、わかるように伝わるように整理された意図を持った言葉で。

嫌いなわけじゃないけど、違和感がある。当たり前に付着する余計なものが消されてしまう。だからそこから少し離れて、時間を過ごすアパートメント。生活と地続き、だけど仮暮らし。

明日の朝、起きた私はこの夜更かしを後悔する。凝り固まった身体という名の習慣がささやかにほぐれて、調子を掴みそこねるから。いや、寝る前にスマホの光浴びすぎ×睡眠時間おざなりで、目覚めが悪くなり後悔するだけ。でも不思議と明日誰かに会うのが楽しみになっている、たぶん。寝癖があり、鼻毛は露わ、息が臭ったとしても、私の身だしなみはいい感じな気がする。

隣に住む人とすれ違ったら、警戒しちゃうけど、住み慣れて、さらっと「おはよう」が言えるときが、たまに訪れますように。

木村 和博

木村 和博

いきづらさに執着しつつ、おどおどしながら顔を上げはじめました。

1991年生まれ。
劇作家/編集者/ライター
2019年4月より平田オリザ氏が主宰する劇団”青年団”の演出部所属、今のところほとんど幽霊部員。

NPO法人soarが運営するウェブメディア「soar」編集部メンバー。

Reviewed by
向坂 くじら

‪はじめるためには準備がほしい。でも、準備なくいきなりはじまってしまうこともある。そしてときに、そっちのほうが「いい感じ」だったりする。‬

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