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2F/当番ノート

琥珀の折

当番ノート 第49期


例えばふたり同じ共通言語を持つこと、同じ曲を口ずさむこと、同じ音域の鳴声でささやきあうこと、体温がひとつに溶け合うこと、ありきたりな単語ばかりが思い浮かんでは消えて淡い湯加減のままほんわり消え去ってしまうこと。

わたしの感情をそのまんま、そっくり普通の、なんでもないひとびとの、大勢大多数の、なだからかで豊かで、ゆっくり落ちてくる流れ星のような、つるりと剥けた茹で卵のような艶々しさを、そんなきっと、これが幸せと呼べるようなものに変えてくれた。

「しあわせになってね。」って電車の中、見送ってくれた彼女、わたしは馬鹿正直に「しあわせがなにかわからない。」と答えてかなしそうな顔をさせてしまった。10年前、あれは小さな損失だった。

頑なにならなくていい、わたしは、柔らかな肉のままでうつらうつら瞬きを繰り返して腕の中溶けてしまえばいいんだ、守られているって安心する?許されているってほんとう?溢れ出せ。あなたはどこまでも尊く眩しい。

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体調不良が続いています。

両想いというものはきっと幸福であるはずなのに、その満たされていることが恐ろしい。わたしこのまま満たされたまま、ぼんやりとあのときの痛みを忘れてしまうのではないのだろうか。感覚が鈍くなってしまってこの世界にある不幸せとか不平等だとかそういったものを信じられなくなってしまうのではないか。恐れと幸福は紙一重ということでしょうか。

わたしの言葉がだれかを救えるとは思えない。

あなたの愛情が永遠に続くものだと信じたいけれどそんなこと経験したことがないので不明確でしかない。

だからこの甘やかな日々もきっといつかかたちを変えて終わってしまう。

どんなにかたちを変えたとしてもあなたの存在はだれが何と言おうと尊く美しい。

季節の変わり目は体調を崩しやすいですね。

気温変化も激しいです。

人生の転機が多い時期でもあります。

みなさまご無理をなさらずにお過ごしください。

宇禰 日和

宇禰 日和

春生まれ。
10代で写真家の作品モデルを経験し、その後も様々な作家のモデルを務める。詩を書く。

Reviewed by
Leiko Dairokuno

宇禰さんの恋愛詩、今週のタイトルは『琥珀の折』。
甘やかな大人の、とろりとした蜂蜜酒のような表題だ。静かな孤独の中でしか見出せない色。寂しげなのも良い。
辛いことの多い世の中で、美しいものを諦めない人の言葉。

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両想いになる(あるいは恋を失う)というのは、蓋然的なことな気がしている。雨が降るように、川が流れるように、花が咲くように、鳥たちが飛び立つように。それは大きな自然の中で、生きる私たちの見えない道だ。

制御しようとしても仕方のないことだと分かっているのに、自分でことを動かしたくなる。
許されていることを確かめたくて、暴力的な正直さで、相手を試してしまう。
穏やかな時間を積み重ねて、ゆるゆると巣作りしていきたいのに、関係や環境が安定すると、焦燥感に突き動かされる。
それは、愛されているからこそ生まれる嗜虐心。
まどろむような幸せの中で、あなたの腕の中で。今日も私を許してね。

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