うつくしいものだけが子どもを産める世界であなたがわたしに口付けをする
うつくしいものだけが生命維持を許される世界でわたしはあなたにメスを当てて二重のまぶたを作り上げる
うつくしいものだけが溢れた街中でわたしは皆と同じに見えるようおんなじワンピースをきて回転する
わたしはあなたを殺めました
それは裕福で幸福であっただろう時間だとか年齢だとか若さだとか知識とか知性とか理性とか本能とか性欲とか前向きな心とかありとあらゆる人間らしいと言われるもの
切り裂いたまぶたの線の中を広げて弄ってそこから根こそぎ引き抜いてぬらぬらひかる
うつくしいものだけが許される世界で
ぬらぬらしたあなた
爪で弾くとぶりんぶりん揺れて塀の上の卵ちゃん落ちて壊れて泣いちゃった
看護婦のわたしは這いつくばって
四つ足のおおかみ舌先だけで泣いてるあなた宥めてあげる
わたしが毎月排出する血液はレバーの塊、卵のない床の間、生ゴミですねって燃やされる
しらけた春は爆竹に打たれて夏が来る
ほらあなた、全部忘れて
うつくしくなりました
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世の中のいろんなことが揺らめいていて、それでも初春の花は美しく咲き、その当たり前の生命のサイクルと自然の強さ、わたしたち人間の生活がたとえどんなものであっても花が咲くということに少しだけこわさを感じています。
わたしは満開の桜が未だに怖く、近くで楽しむということが苦手です。うつくしいと思うのですが、遠くから眺めるのが一番好きです。
このこわさの理由は昔読んだ本の有名な一説『桜の木の下には屍体が埋まっている』というのに強い衝撃を受けたせいかもしれません。
けれど、この『うつくしい、けれどこわい』という感覚は、顔の整った方にお会いしたときや、素晴らしいお洋服に出会ったときなども同じように起こるのです。
うつくしさと恐怖は意外と近くにある感情なのかもしれません。
季節外れの雪が降っております。
これが公開される日が温かな日でありますように。