2019年7月にヨルダンの空港に到着したのだが、それから3ヶ月近くは雨に遭うことは全く無かった。折り畳み傘と長靴を日本から持ってきていたが、しばらくの間はスーツケースから出て来ることは無かった。
ヨルダンの観光名所の一つが「ワディ・ラム」と呼ばれる砂漠地帯だが、ヨルダンは国土の7割近くが砂漠である。
ヨルダンより年間降水量が少ない国は10カ国程度しかない。首都のアンマンは砂漠地帯では無いものの、春から夏にかけては全く雨が降らず、10月から3月あたりにかけて集中して降る。
雨が少ないので水資源も乏しい。ヨルダンでは1週間に50時間程度しか水道が動かない。建物の屋上には水を溜めておくための白いタンクが置かれている。限られた時間で水をタンクに溜め、大切に使う。
パレスチナやシリアから多くの難民がヨルダンに流れ込み、ただでさえ少ない水資源を多くの人で使わざるを得ない状況である。
10月に入りようやく始めての雨を経験した。小雨だったが私の同僚や友人は神からの恵みだと喜んでいた。年の瀬に迫るにつれ、雨の頻度も高くなり、降る量も多くなった。
ようやく傘が活躍しはじめたのだが、外を歩いて驚いた。私以外誰も傘を差していない。水たまりができるくらいの雨でも傘を差さず平然と外を歩いてスマホをいじっている。「スマホ壊れるで」とつっこみたくなる。
ある雨の日、いきつけのパン屋に立ち寄った時に店員が私に尋ねる。
「ラミは何で傘なんか差して歩いている」
「雨に濡れることが嫌だから、鞄にパソコンも入っているし」
納得がいっていない模様だったので、今度はこちらが聞いてみる。
「どうしてヨルダン人は傘を差さない」
「雨が好きだからだ、雨は神からの恵みだ」
まるで私が神からのめぐみを傘で避けているかのような物言いだったので悔しかったが、雨に濡れることはどうやら彼らの本望のようだ。小雨でも傘を差す日本人が敏感過ぎるのだろうか。
12月から2月が最も雨が降る。傘を差しても靴に水が浸みるくらいには強い雨の日があった。この雨の中彼らは傘を差さずに外を歩くのかと、少しばかりの畏敬の念を抱きかけたとこ、同僚から電話がきた。
「雨が強いから仕事の開始を2時間遅らせる」
後に学校で活動する隊員から聞いたのだが、この日学校は休校となり、職員も休みになったようだ。
雨を理由に職場や学校に来ないことが許される。これもまた神からの恵みなのだろうか。
<参考文献>
Elizabeth Whitman “A land without water: the scramble to stop Jordan from running dry”
Nature NEWS FEATURE | 04 SEPTEMBER 2019