入居者名・記事名・タグで
検索できます。

2F/当番ノート

「あの山の向こうにゴーンがいるのか」「いや、ゴソンな」

当番ノート 第50期

ヨルダン北西部の古代遺跡「ウンム・カイス」を訪れた。

ローマ帝国の軍事基地として栄えたこの地からは、パレスチナとイスラエル、そしてシリアとの国境が見渡せる。国境を巡って争っている場所と言った方が正しいかもしれない。

ウンム・カイスから北の方角を見て撮影した写真。正面に見えるのがチベリアス湖。その右側にはゴラン高原が広がり、イスラエルとシリアが主権を争っている。

雲一つない快晴。ゴラン高原の奥にはうっすらと白い山が見える。黒い四角で囲った部分を拡大する。

矢印で示したこの山は「ハーモン山」と言い、シリアとレバノンの国境である。

ウンム・カイスを訪れたのは昨年の12月末。この写真を撮影したおよそ1週間後に、日本からレバノンにカルロス・ゴーンがやって来た。彼はあの山の向こう側にいるはずだ。

定期的にアラビア語を私に教えてくれる友人がいるのだが、彼にこの写真を見せてみた。

 

「この山の向こうにカルロス・ゴーンがいる」

 

「ゴーン?有名人?」

 

「ゴーンだよ、日産の」

 

カルロス・ゴーンについて書かれた英字ニュースをスマホで見せる。

 

「あー、ゴソンね」

 

「ゴソン?」

 

思わず聞き返したが、何度聞いても「ゴソン」である。「ゴーン」では無い。

「ゴーン」を英語表記にすると“Ghosn”なのだが、日本語でも英語でも “s” は発音されない。「ゴーン」と言えば世界中どこでも通じると思いこんでいたが、アラビア語ではしっかりと “s” を発音することを初めて知った。

アラビア語で彼の名前を書くと “غصن(Ghosn)” となる。3文字で構成されていて、右から“غ(Gho)”, “ص(s)”, “ن(n)” となる。

カタカナにすると「ゴソン」に近い発音になるが、この場合における「ゴ」と「ソ」の発音は日本語には存在しない。厄介なことに英語にもこれらの発音は存在しない。

まず「ゴ」の音だが、「口蓋垂摩擦音(こうがいすいまさつおん)」と言い、うがいをするときの「ガラガラガラ」の「ガ」に近い発音になる。

次いで「ソ」の音だが、これは「口蓋垂化音(こうがいすいかおん)」と言い、舌の先を上の歯茎に、舌の奥を口蓋垂にそれぞれ近づけて発音する。日本語の「そ」よりも威圧的になる印象を受ける。

アラビア語ネイティブの人とカルロス・ゴーンの話題になった時はさりげなく「ゴソン」と言ってみるとよいだろう。

 

<参考資料>

東京外国語大学 言語モジュール アラビア語 発音モジュール理論編

http://www.coelang.tufs.ac.jp/mt/ar/pmod2/ (2020年3月2日)

Rami

Rami

JICA海外協力隊として2019年7月から中東の国ヨルダンで活動中。ヨルダンの野生植物の調査・保全および教育に携わっています。学生時代は植物が栄養欠乏に適応する仕組みについて研究し、その後は総合商社で肥料原料の輸出入に携わっていました。Rami(رامي)は現地での呼び名で、「投げる」「放つ」という意味。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る