メッカへの巡礼から帰国した同僚の机の上に、見慣れない木の枝が置いてあった。
長さは10センチより少し長い程度。太さは5ミリくらいだろうか。木の枝であることは分かったのだが、そこから先が分からない。そこへ同僚がやってきて自慢げに話す。
「ラミ、これは歯ブラシだ。しかも歯磨き粉が必要無い。」
この木の枝でどこをどう磨くというのだろうか。納得していない私の表情を察したのか、カッターナイフを取り出してこの木の枝を削りだした。枝の先端の1~2センチあたりを躊躇なく削る。
表皮が削れて内側の繊維質が姿を現した。若干ではあるが歯磨き粉のような臭いがした。同僚がこの繊維を裂きはじめる。
なるほど、この状態で「歯ブラシだ」と言われれば少しは納得がいく。
繊維が裂かれたところを歯に当てて磨くようだ。先端がダメになったらまた新しく2センチ程度削ることで長く使える。使えなくなるまで短くなったら山にでも捨ててしまえばよい。この点においては私たちが日頃使っているプラスチック製の歯ブラシより合理的だ。上手く磨けているのかどうかは分からないが、食後に歯を放置するよりかはマシだろう。
「『ミスワク』という天然の歯ブラシだ。お前も使え。」
以下はウィキペディアの英語ページの内容になるが、どうやら「ミスワク」は歯を磨く用途でおよそ7,000年以上も前から使われていたようだ。プラスチック製の歯ブラシが主流となった現在でも中東、アフリカ、東南アジアなど、イスラム圏の広い地域で使われており、Youtubeで使い方の動画もいくつかアップされている。
過去にはWHOが使用を推奨していたこともあるようだが、効果については賛否が分かれている。「ミスワク」を使うにしろプラスチック製の歯ブラシを使うにしろ、歯磨きの技術を身につける必要があるのだろう。
薬局に行くと「ミスワク」の成分が配合されたリステリンを買うことができる。
パッケージに”مسواك (MISWAK)”と書かれている。日本の薬局でリステリンの売り場を入念に確認したことは無いが、おそらく「ミスワク」が配合されたリステリンは売られていないだろう。
さてこの「ミスワク」だが、植物の種類としては「サルバドル・ペルシカ(Salvadora persica)」のことを差す。中東やアフリカ、アジアなど広い地域に生息している。
イスラム圏に旅行の際、歯ブラシを忘れた時はこちらの「ミスワク」の木を探すとよいだろう。