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2F/当番ノート

家族との暮らし、に戻るまで。

当番ノート 第55期

千葉の実家を出たのは、横浜にある大学院に通い始める時だった。家事もほぼせず、家族に甘えて暮らしてきた私にしては、自分でも意外なほど、その出発はあっさりとしたものだった。

本来なら「一人でやっていけるのだろうか」「寂しさにうちのめされないかな」などと考えそうなのになぁ? そうだ、私はすでに「実家を出た」経験をしたんだった。

新宿の輝く街を見下ろしながら、大学病院で入院を半年間、さらに一ヶ月間の入院を、6回。病院というシェアハウスに居たのだった。

引越して、荷ほどきを手伝ってくれた両親と長姉を見送り、ついにひとりになった時にポロポロっと泣いちゃったけど、一番寂しかったのはその時。

大学院時代の一人暮らしは、学校に泊まり込むことも多く、楽しく自由を謳歌した。修了後もそのまま部屋を更新して、フリーランサーとして働いた。

狭い部屋に閉じこもり、慣れない仕事を一人で背負ってこなすのは、キツかった。溜まり過ぎた何かを吐き出さんと、アパートを飛び出し「あぁぁああーー」て叫びながら町内を走り回ったこともある。

狭い部屋が苦しくて、クライアントさんの会社に机を借りて、通ったこともある。ONとOFFが生まれて、とてもありがたかった。

そういえば、一晩だけそこに泊まった。

(地下のそのフロアには、もう誰もいないはずなのに、隣の真っ暗な部屋の扇風機が突然ついたり、足音が私の部屋の前で止まったので、ちょっと開いてるドアの方をみるも、誰もおらず。ドアを閉めるのも怖い空間だったので、少し隙間を開けてるんだけど、どうしてもその隙間からじーっとこちらをみる視線を感じて、背筋がゾワゾワして、仕事にならなかった。電車もないし、椅子を並べて寝たら、部屋の上空に黒いモヤモヤした気配が溜まってて(目には見えない)、「あなたの下で眠ることをお許しください…」と思いながら寝たのだった。翌日、このことを会社の人に話したら「やっぱり?!ここ出るって噂なんだヨォォォ」て怯えながら教えてくれた。)

私、その会社の周りでも「ウアァァアーーー」って叫んで走り回ったこともあるな。空間のサイズは関係ないのか。締切前にアイデアが出ないとそうなるのだなぁ。

その後会社員になって(泊まった会社さんとは別)、その会社を退職したのをきっかけに、8年ぶりに実家に戻らせてもらった。

両親と父方の祖母(認知症)との四人暮らし。坂の下にある家だ。

夜、大声でワーワー歌いながら自転車で坂を降る人がいる。遠くで聞こえる歌声が、一気に大声になり、また遠くへと過ぎていく。二階の仕事部屋でそれを聞く度、「気付いてないでしょうけど、丸聞こえですよ」と教えてあげたくなるし、「その衝動、わかりますよ」と思う。

(自由な発散をするには、ちょっと壊れたりイカれたりする必要があるなぁって思うんだけど、そのストッパーみたいなのが、そもそもに無い感じの人もいるし、ハズしてまで出したいものが無い方もいるようだし、ベース溜めないで潔くスーッと出してる人もいるみたいだし、他にもいろいろなんだろうなぁ。いろいろなんだなぁってことが、わかってきたことは嬉しい。)

家族と暮らす、の風景を次回話したいと思う。

mopoka

mopoka

アニメーション作家、絵本画家。
小学生の頃から、町会の掲示板のポスターや、電信柱に貼られてるチラシや、電車に貼られてるポスターなど、身の回りに溢れる「絵」が一体だれが、どこから頼まれて描いてるのか、不思議ですごく知りたかった。
いまだ、不思議に思って眺めてしまう。

Reviewed by
早間 果実

走れ、絶望に追いつかれない速さで。
それはどうやらおれにしか見えない。
見えないやつらは大げさだと言う。
おれは止まらない。

それはときどき手を伸ばしてくる。
つかまれたら飲み込まれちまいそうだ。
必死に走る。
生きてるって鼓動がいななく。

それはときどき切なげに叫ぶ。
どうやらおれにしか聞こえない。
見えないやつらは気休めを言う。
おれはそれが、そいつが気になる。

そいつはどうやらおれと似てる。
ひとりぽつねん苦しそうだ。
おれは潜って手を叩く。
おまえはどうにもひとりじゃない。

見えないやつらは無責任だ。
無責任なのにかまってくる。
そのいくらかが命綱となる。
だからおれは孤独に潜れる。
おまえの孤立を慮れる。

追いつかれたらどうなることか。
思い詰めてどれだけ走ったか。
うっすら前に似た形が見える。
そいつの名は希望というらしい。
おれを急き立てる。

今やおれはアキレスのように速い。
なのにそいつには追いつけない。
息苦しい。
振り返る。
いつの間にかそいつが迫っている。
手を伸ばす。
おれは息を吸う。

そいつは虚無でありフィラメントである。
そいつは殺人鬼であり救世主である。
そいつは愉しい地獄で第五と第九を奏でる。
おれはおどる。

走れ、絶望に追いつかれない速さで。
走れ、希望を追い越すような速さで。
影も光も死も生もおんなじだ。
おれは走る。
ただ生きてるから死ぬまで走る。

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