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2F/当番ノート

エッセイとは虚構だ

当番ノート 第55期

 2ヶ月間の締めくくり、今回が最後の連載になってしまった。テーマを思いあぐね、今までに書いたものを読み返していた。

連載のスタート時のテーマは、生活保護の「生活」の様子を私なりに綴ることだった。コロナ禍で女性の自殺が増えているニュースに胸を痛めていたので、生活保護でも案外生きられると思ってほしかった。今思うと、それに気を取られて明るく書きすぎたきらいがある。しかし、とにかく陰鬱な印象を与えたくなかったのだ。

中盤ごろからは、「生活」だけをしているフェーズから、「社会復帰」を目指す段階に変化した。装いやアロマの話を挟んだものの、読み返していると苦しさがじんわりと伝わってくる。障害者の生きづらさをメインに書くことは避けたかったのだが、それは文章を書く上での意図というよりは、プライドによるところ、そして現実を直視して言語化するのを恐れた私の弱さだろう。

生活にしても、社会復帰の話にしても、現状肯定したいのにしきれない、揺れる部分があることに気づいた。本当はこれで満足しています、と堂々と胸を張りたいのに、食費を切り詰めることにも、カフェに一回寄ることすら財布と相談するのも、もうこりごりだ、最低限じゃ私は満足できないとひもじさをやり過ごせない時があると思えば、やりくり上手にもっと上手く工夫して生活しよう、と前向き全開な時もある。

なぜフリーライターしか職歴がない障害者だと言うだけで、社会復帰の壁がそびえ立つのだと怒り狂う時もあれば、まあ仕方ないよね、と諦め半分でMOSの勉強をしている妙に冷静な私もいる。

生活保護は、とてもありがたい制度だ。受給者全員が必ずしも利用停止して、自立に向けて努力すべきだとは絶対に思わない。しかし、私はそれでは救われない。私は自分の力で自分を養いたい。もっとお金と自由が欲しいし、いっぱしの社会人になりたい。

実現したいこともたくさんある。ZINEを出版したいし、もっとライターとして名が売れて欲しい。福祉の資格が欲しい、勉強がしたい、大学にも行きたい。恋人と結婚したいし、一緒に暮らしたい。

利用停止したい生活保護受給者に対しての情報の少なさもどうにかしたいし、障害者というだけで自尊心が削れていく社会にも言いたいことがたくさんある。

エッセイとは虚構だ。自分の断片を選び、編集するかのように、読者に与えたいイメージを織り上げていく。だから、この最後の文章は、エッセイではない。一番血の通った、生身の私に近いものだ。

この2ヶ月、週に1回強制的に内面をさらって文章にしてきた。フィクションだけどもその中に確実に本音の私もいる。だだっ広い日常空間にアンカーを打ち込んで、どろどろした感情に足を取られないようにできたと思う。そういう意味で、9回に及ぶこの連載は、私にとって鮮やかなくさびになった、宝物のような文章だ。

定期的に書く習慣をこれからも絶やさないように、自分のページでも発信していくつもりです。もしよければ、これからも見守ってくださると嬉しいです。最後までお付き合いくださり、ありがとうございました。

滝薫

滝薫

ライター兼福祉の仕事がしたい人。アロマと料理と編み物が趣味というナチュラル丁寧加減ですが、本人は結構辛口です。

Reviewed by
高松 直人

どん底の状態をさらけ出すのは勇気がいる。日々葛藤の中で執筆を続けるのは大変だったと思います。お疲れ様でした。

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