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2F/当番ノート

05 資生堂パーラーのパフェ

当番ノート 第55期

銀座って四角い。

大きな四角い箱の中に、様々な四角を上手にはめ込んで出来ている。積み木を箱の中に戻す時みたいに、まず大きいものを詰めてから、できた隙間に小さなパーツをはめていく。銀座は、なんとなくそうやって作られていうような感じがする。一度そう思ってしまうと視界に入るもの全てが四角ばかりになって、歩いている時の体感も小さいころ兄がやってたRPGゲームのキャラクターになったみたいになってくる。

先日アルバイトの後に知り合いの展示を見に銀座まで行ったのだけど、その日は嵐のような天気で、本当はあまり外に出ていたくない日だった。でもその日しか行けるタイミングはなかったので何度も傘をひっくり返しながら銀座に向かった。

展示を見た後、大学時代のゼミの教授がいつも長々としゃべる授業の前振りの中で大好きだと言っていた「資生堂パーラー」のパフェのことを思い出して、こんな天気の中銀座まできた自分へのご褒美にと、食べに行ってみることにした。

白い手袋をしてぴちっと髪をおでこに貼り付けきちっとしたスーツを着た人が立っているお店をカクカクカクカク曲がって曲がって歩いていると、上品なレンガ色の建物にたどり着いた。ガラスの外から中を伺うと、スーッと天井が抜けていて、外の天気を感じさせないほどに空間は真っ白で眩しかった。みんなお揃いのピンクの制服をきて、カフェに入る入り口の前には本物のメイド服をきた女性がいた。お店ができた50年前の姿を、この四角の箱の中に時を止めて残し続けているようだった。そこに傘をさしてくれる御付きの人を従えた素敵なお洋服のおばあさまが入って行ったのを見て、これは今日、私は中に入ることはできないと思った。銀座に行くからとこれでもいつもバイトにいく時よりかは気を使って、新しく買ったゴールドのブラウスを着て行ってたものの、ズボンにはダメージがはいっているし、焼き魚の煙を吸い込んで髪はちょっと匂うし、カバンにはバイト先で余ったからといってもらったお米が袋に入った状態でばさっと入れてある。

甘かった。どうやらこの銀座資生堂パーラーに入るのにはそれなりの装備が必要だったらしい。そもそも問診票の職業のところになんで書けばいいのかいつも迷ってしまうわたしには到底入ることなどできないのかもしれない。だんだんとマッチ売りの少女のような気持ちになってきたため、気を取り直してチェーンのカフェの中でもちょっといいカフェ、のイメージのPRONTOに入り、ロイヤルミルクティーとオレンジキャラメルミルクレープをたべた。そのオレンジキャラメルミルクレープが超おいしくって、ちょっと惨めになった気持ちもどうでもよくなった。

またいつか、お気に入りのワンピースで装備をし、自信満々で資生堂パーラーのパフェを食べに行こう。頭の先からつま先まで整えて、特別な日にしかつけないジャスミンの香りを身に纏い、てっぺんに丸っといちごが乗ったあのいちごパフェを食べるんだ。私はその時のことを妄想しながら、ロイヤルミルクティーを飲み干した。


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