一度完成させた作品を修正する事は、作品を完成させる事より難しい。
少なくとも私にとってはそう。
私は見直しがとても苦手だ。勢いでばーっと作品をつくる癖があるから、それを見直して削って書き変えて……という行為が非常に非常に不得意。
一度カタチにした言葉の並びを消すのが、もったいなく思えてしまうのが原因の一つだろう。要するにケチなのだ。
これは私の弱点である。
その文字列を思いつくまでにかけた思考時間を捨てるのがもったいないから見直さない。だが見直さなければ、誤字や、勢いで誤魔化せないほどおかしくなっているセリフの修正ができない。
この弱点を無くす為に、今年の夏季休暇中は一本の脚本を延々と修正し続けた。
総文字数が44281文字、ページ数は86。大きい数字が嫌いなので打っていて気持ち悪くなってしまった。
この量を修正し続けて、シーンづくりについて気づいた事があるので、今回はそれを共有したいと思う。
物語は場面……様々なシーンが繋がることで成り立つ。
このシーン一つ一つの並びは書き手の自由であり、決して事実上の時系列の並びでなくても良い。
例えば
・隣人が「作りすぎた」とじゃがバタをくれた
・主人公、そのじゃがバタを食べる
・翌日主人公、隣人にじゃがバタのお礼を言いに行く
上記の3つのシーンは、上から時間の流れ順である。だが、
・主人公、じゃがバタを食べている
〇隣人が「作りすぎた」とじゃがバタをくれた回想
・翌日主人公、隣人にじゃがバタのお礼を言いに行く
こう並び替えると、時系列順だった時より【じゃがバタ】が物語の中で強くなるのだ。
理由はおそらく、物語から得る情報として「隣人と主人公」の関係よりも先に「主人公とじゃがバタ」が与えられるからだろう。
シーンの並びを組み替えてみると、物語の中で強調したい出来事をより効果的に描ける。シーンを並び替えるにはまずシーンの流れを完成し、全体を把握することが必要になるので、プロットを完成させた後しっかりと見直さなきゃいけない。ああ、見直しは大事なのだ。
次に、シーンを利用した伏線の整理、モチーフの効果の強化の仕方について、気づいた事。
先のじゃがバタ隣人の物語を流用して、
自らの元を去った恋人“A”を忘れられない主人公が、じゃがバタをくれる隣人と出会い、新たに恋をする、というストーリーを書くとする。
その物語に、「開けた戸棚から、Aからもらったラブレターが出てきて、当時を思い出して泣く」というシーンを入れよう!と思いつく。主人公は過去の恋人へ、まだ未練を抱いている……ということを表すシーンだ。
完成後【見返してみると】少し長い感じがしたので、このシーンを利用してより物語をタイトにすることにした。ではどう利用しようか。
ラブレターという小道具が存在しているので、これを特売チラシという恋愛から離れた小道具に変更してみる。
「開けた戸棚から、特売チラシが出てくる」
特売チラシをむりやり主人公と隣人の恋愛の物語にこじつける。
「その特売チラシは、隣人が主人公により多くのじゃがバタを食べさせる為にチェックしていたものであり、じゃがいもとバターの部分に赤ペンでメモ書きがしてある」
この設定を利用するとこんなシーンができる。
「開けた戸棚から特売チラシが出てきて、それを見る事で隣人の愛を知り、ついでに過去の恋人の事も連想して泣く」
「開けた戸棚から、Aからもらったラブレターが出てきて、当時を思い出して泣く」シーンが存在している時点で「主人公はAからラブレターをもらっている」という情報を受け手に与えるシーンが物語上のどこかに置かれているわけで、
上記の
「開けた戸棚から特売チラシが出てきて、それを見る事で隣人の愛を知り、ついでに過去の恋人の事も連想して泣く」シーンは合計2つのシーンの伏線を回収することができる。
繋がりの無いシーンをぼこぼこと並べられた時より、モチーフなどで繋がりを持っているシーンを並べた方がおさまりが良く、タイトな印象になる。何より、冒頭で出した情報が関連するシーンで最後の締めくくりに向かえると、その物語が持っている要素が洗練されるのだ。
今回の記事は、シーンづくりをする時に脳内で考えている事を説明してみたくて、書いてみた。未熟な私の思考だけれど、誰かの役に立つことがあったら、とても嬉しい。