高校に進んだわたしは、相変わらず紙を切り続けている。
この頃になるとフリーペーパー沼にずぶずぶハマってる。わたしの通っていた高校では「1年で一つ何かを研究しよう」という自由課題があった。高校2年生のとき、わたしは「フリーペーパー研究」を題材に選ぶ。表紙もコラージュで作り、フリーペーパーとは何か、どういう種類があるのか、自分はどのくらい集めたのか……をまとめた。課題というより、もはや趣味である。
受験期が近づいてくると進路の話も増えてくる。高校3年の春頃からオープンキャンパスに参加するようになった。ぼんやりと「フリーペーパーや文学の研究、創作、雑誌制作、すべてができる学校がいいな」と思いつつ、「文芸」という名がつく学科やコースを見学した。
某大学の文芸コースを見学すると「小説を書いています!」というわりに一部の生徒だけがピックアップされている。全員が本当にちゃんと書いているのか怪しい。あと自主制作の本が堅苦しく、「第〇期文芸コース作品集」みたいな名前でまとめられている。これではつまらない。
他の「文芸学科」を見ても、研究が主で雑誌制作や創作は二の次、という印象だ。「勉強???小説??フリーペーパー?(笑)そんなことよりサークル!飲み会!」という学校もあり、様々だった。
そんなとき、うっすらと母が「ニチゲーいいんじゃない、ニチゲー」と言っていたのを思い出す。日芸、つまり日本大学芸術学部のこと。母の世代は「日芸は偏差値ではなく才能で入れる」といった印象があったようで、「あんたは向いてそうだけど、入れるかしらね……」といったニュアンスで日芸について教えられた。曰く、”変な人が集まる場所”と。美術系の学科しかないと思っていたが、調べてみると「文芸学科」なるものがあるらしい。ホームページや口コミを見ていてもよくわからないので、見学に行くことにした。
オープンキャンパスに行き、文芸学科のコーナーに入ると、生徒の作った雑誌がずらりと並んでいた。その種類は様々で、堅苦しいものもあれば、雑誌風のものもある。それが何十冊も積み上げられ、雑然と並べられている。これが、全部、無料。かなり分厚い本も、高価そうな雑誌も、全部タダで持ち帰っても良い。無料雑誌が大好きなわたしにとっては、まさに天国だ。
片っ端から雑誌を持ち帰った。学校内を見学し、学生相談もしたが、他の大学で散見された「うちの大学はいいぞ」「こんな生徒がこんなものを書いているぞ」というゴリ押しがなかった。全体に漂う「入りたければ、入ればいいんじゃないかな」「好きなこと、やればいいんじゃないかな」という雰囲気。生徒たちは全員が「書くことが当たり前だけど、何か?」という顔をしている。
悩んだ末、日芸を受けることにした。推薦で。例年、日芸では(一般試験もそうだが)面接と創作試験がある。「最後にこの一文を使って、小説を作りなさい」というもの(あるいはテーマに沿って小論文を書くもの)。先生たちと必死にその対策をした。みんなが必死に英単語を覚え、歴史の人物を覚えている間、わたしはひたすら小説を書いた。
当日の創作課題はわりとよくできた。あとは面接だ。
フリーペーパー研究したファイルを持参し、「フリーペーパーの研究をするくらい好きで!フリーペーパーを作りたくて!」とアピールすると、試験官たち(のちに知るが、学科の先生たち)は「ふーん」とあまり興味なさそうな顔をしていた。
ある先生が気を利かせて「あなたはどういうのを作りたいの?」と笑顔で聞いてくれた。が、そこを全く考えてなかった。とにかく作りたい気持ちだけで動いている。そこを見透かされたようで心底焦った。しどろもどろになりつつ当たり障りのない回答をすると、「そうですか」と笑顔のまま、面接が終わった。
何が良かったのかはわからないが、無事に合格。日芸に入ることでフリーペーパーをめちゃくちゃ作るのだが、まだ作らない。いや、本は作る。だけど、まだ、フリーペーパーではない。