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2F/当番ノート

紙、それは作るもの・3

当番ノート 第59期

 1人で新しいフリーペーパーを作り続けていた。
 サークル「トロイメライ」を2年生で卒業という形にしたのは、「1,2年生で好き勝手フリーペーパーを作っていても、3年になったら就活に役立ちそうなことやっておこうね!」という理由もあったのだが、全然やらなかった。サークルでのフリーペーパー作りをやめたのに、結局1人でフリーペーパーばかり作っていた。アホである。
 たくさん作ったフリーペーパーの一部を紹介したい。

 一つ目は「くしゃっとペーパー」
 フリーペーパー専門店で働いているときに「緩衝材を捨てるのもったいなくない!?」と思い作り始めたもの。自分で言うのもあれだが、ゴミである。内容もクソ。ちなみに内容は全部違うし、すべて手書き。作ったら全部配布しているので、どれも手元に残っていない。リサイクル可能な紙をゴミにして配布しているだけである。要するにクソゴミである。

「くしゃっとペーパー」。全部中身が違う。作った本人もよく覚えていない。たまに「カクッとペーパー」「さらっとペーパー」なども現れる。

 二つ目は友人と作った「週刊プリン」
 トロイメライに所属していた友人と「どんどん劣化していくフリーペーパーを作りたい」ということで作った。全4号。創刊号はカラー8ページ、2号はカラー4ページ、3号は白黒4ページ、4号で廃刊のお知らせと徐々に劣化していく。意外と好評で「創刊号面白かった!続き楽しみ!」と言ってくれる人に2号を渡すと「え?あれ?あ、うん。え?」と何とも言えない顔をされた。狙い通りである。

「週刊プリン」創刊号。後輩が可愛い表紙を作ってくれた。特集は「巨大プリンを作る」。
左手前が創刊号。右手前が2号「特集:コンビニプリン食べ比べ」。左奥が3号「勝手にWiki直し」。右奥が4号「廃刊のお知らせ」。

 三つ目は「文芸新聞」
 文芸学科のイベントを広報するために勝手に作ったフリーペーパーである。当時書籍化もされた「金岡新聞」にインスパイアされた作品(しかもご本人・金岡陸くんにも送って承諾済み)。これを印刷してくれて、配布し、壁に貼ってくれる文芸学科の懐の広さ、本当にすごい。日芸文芸は良い学校ですマジで。

「文芸新聞」。イベントごとに作っていて大変偉かったが、読んでいた人がいるのかはわからない。

 四つ目が一人で作った「ocean」
 友人が急に「俺、forestっていうフリーペーパーを作るわ」と言い出したので、対抗して作った。どうして対抗したのかよくわからないし、「forest」も結局発行されなかったのだが、とにかく作った。内容はわたしが文章を書き、友人に手書きで突っ込んでもらうというもの。何が面白かったのかわからないが、友人たちは「ocean出た?」と楽しみにしてくれていたので、調子に乗って月1くらいのペースで発行していた。

「ocean」。表紙は毎回いろんな友人に描いてもらっていた。
一つのテーマについてわたしが3000字程度の文章を書き、表紙を描いてくれた人にツッコミを入れてもらう内容。これは3号の「性について」。

 こんな感じで、就活もせずフリーペーパーを作りまくってSFF(Student Freepaper Forum)というイベントにエントリーしたら「ocean」と「くしゃっとペーパー」が予選通過した。マジか。多くの人がサークルでエントリーしているのに、一人で2冊通るという快挙。今考えると純粋に頭おかしいが、当時のわたしはもっと頭がおかしいので「わたしのフリーペーパーが決勝に進めないなんて!!!おかしい!!!!!どうして!?!?!?!?!?!」と暴れていた。気狂いフリーペーパー女である。決勝には進めなかったが、20位以内には入ったので、ブース展示した。

2013年SFFの様子。2ブースを一人で使うフリーペーパー狂い女。他のブースと比べるとわかるが、浮いている。
「ocean」のブース。風船を配置して可愛い雰囲気。
「くしゃっとペーパー」のブース。新聞を使ってくしゃっと感を出した。

 このころSFFをはじめ、多くの学生イベントに参加するようになり、学生フリーペーパー制作者と話す機会が多かった。
 が、多くの学生フリーペーパーは、企業に営業して広告を掲載し、有名人にインタビューをし、少しだけ面白い企画をする、というもの。わたしは意味のないフリーペーパーを作り続けていたので、学生フリーペーパー制作者たちからは「え、これは何のために作っているんですか?(笑)」と聞かれることが多かった。
 他には「何部作っているんですか?僕たちは2000部ですケド……」「広告はどうしているんですか?僕たちは某企業に営業してますケド……」「配布場所は?」「どんな人にインタビューを?」といった具合だ。そんなことを聞かれるたびに「ウワアアアア!!!」と発狂しそうだった。

 フリーペーパーは就活の道具にされやすかった。面接で言いやすい、目で見やすい、数字で示しやすい、有名人にインタビューすれば箔が付きやすい。フリーペーパーを愛するがあまり、利用されることに苛立っていたわたしは、彼らと話すたび「うるせえ!!目的なんかねえ!!!」と片っ端から殴り倒したい衝動が襲った。卒業が近づくと普通はサークルを引退して就活やインターンなどで忙しくなるが、わたしは「こんな奴らと一緒にされてたまるか」という謎のプライドで、卒業間近まで意味不明で無意味なフリーペーパーを作り続けた。

 とは言いながら、就活もそこそこにしていた。100社くらいに一斉エントリーをして友人に「そういうの、ダメらしいよ。終わったな北枕」と鼻で笑われるポンコツ就活生だったが、出来心で受けた企画制作会社(と名乗っていたが編集プロダクション)に入社した。
 それもふざけているので、全くデザインの勉強をしていないくせにデザイナーとして試験を受けた。「この説明をわかりやすく図版にせよ」という問題に、案の定、全く何も書けず白紙で提出。その一方で「あなたはこういう状況のとき、どう思うか」という文章問題がスラッスラ解けて、なおかつ長文でだらだら書いたのが功を奏したのか、「デザイナーじゃなくて編集者でどうかな?」と試験を続けさせてくれた。ありがとう採用担当……わたしが入社したときはもういなかったけど……。
 他の会社の面接では「最近あった嬉しいことは?」と聞かれて何も思い浮かばず「あ〜……少し考えさせてください。……あ〜……あ、ゼミの友だちがサプライズでディズニー連れて行ってくれたことですかね」と時間がかかったわりに面白くない回答をして試験官を困らせていたが、この会社だけは最終試験の「マイブームはなんですか?」という質問に対して「あ~シールを貼りまくることですね〜」と答えてもめちゃくちゃ笑顔だった。どういうことだ。

シールを貼りまくる様子。ベネッセの付録シールを貼りまくったもの。
シールを貼りまくる様子2。キャラクター系シールを貼りまくったもの。

 ということで、無事に入社した。

 社会人に入ったらフリーペーパーはやめよう。仕事で真面目な本をいっぱい作ろう。好きが仕事になるんだ!やったー!そう思っていたのが、まだ作り続けることになる。

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