当番ノート 第54期
サンタクロースの存在を何歳まで信じていたのか、よく覚えていない。でも、サンタクロースを信じていた理由なら覚えている。 小さい頃のこと。クリスマス当日の朝、起きてすぐにベッド周辺でプレゼントを見つける。昨夜はわがやに忍び込んでくるサンタクロースの姿が見たくて、眠らず見張っていたつもりだったのに、いつのまにか寝てしまった。プレゼントは、たいてい私が希望していたとおりのおもちゃ。どうしてサンタクロースに…
当番ノート 第54期
数年前のこと。 久々に群馬に帰省することになったので、私は「この機会にどこかしら散歩しませんか?」と友人のKさんに連絡をした。 Kさんはやわらかな雰囲気をまとった所作の美しい女性だ。一緒にいるととても安心できて、互いに喋らない沈黙の時間さえも心地がいい。言うまでもなく私の大好きな友人のひとりである。 件の連絡に返ってきた返事は「ぜひ!」というものだった。場所はお任せとのことだったので、彼女の最寄り…
当番ノート 第54期
12月も後半である。街路樹は煌びやかなイルミネーションで彩られ、あらゆる場所で赤と緑の装飾品が目に入る。無宗教である私も、このお祭り騒ぎみたいな雰囲気に浮き足立ち、購買意欲を煽られ、にんまりしながらショーウィンドウを覗き込んでしまう。年末のご褒美として自分に何かを買ってもいいが、どちらかと言えば、親しい人たちに何かを贈りたい気持ちにさせられる。ふと、それが増幅し、サンタさんになりたい、という大仰な…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅にて、ボイスレコーダーに録音したトーク内容を書き起こして投稿しています。全8回の3回目です。 先週の記事を書いている途中、そういえば生活の中で、習慣にしている事柄がいくつかあるということに気がついたので。今日はそのいくつかの中から白湯の話。 – 毎朝、白湯を飲むだけの時間を作る…
当番ノート 第54期
前回、煉瓦色が自然と集まってくるという話をしていた。よくよく見返すと、マニキュアや口紅、アイシャドウやマスカラまでも赤茶色というか赤褐色というか、赤と茶色の中間あたりの色が多い。意識的に集めているわけでは無く、気が付けば手が伸びている。 なんでだろう。 それはきっと、この色に安心感があるからかもしれない。 そしてこの安心感は「似合ってくれそう」な信頼感と、「大地」を連想する安定感からきていると思う…
当番ノート 第54期
山と目が合ったことがある。青森の高校生だったころの話だ。 何を言っているのかわからないと思うが、私自身もよくわからない。でも、「目が合った」という実感が、たしかにそのときあったのだ。 「わかる、田舎ではよくあることだよね」という人がいたら、ぜひ詳しくきかせてほしい。私にとってはよくあることじゃなかった。 地方出身ではあるのだが、自然に囲まれて育ったわけではなくて、基本的に地面は舗装されているし、ビ…
当番ノート 第54期
どれだけ思いを巡らせたとしても、自分以外の者が何を考え何を想い、どんな気持ちで生きていたのか、その人が幸せだったか不幸せであったかなんて、きっとずっとわからないままだ。 それでも私は対岸のあなたに問いかけ続けている。 始まりは12年前。 ペットショップで見かけたときの印象は「ふてぶてしい」で、絶対にこいつとはウマがあわないし一緒に暮らせないだろうなと私は思っていた。 しかしそれから数日後。どういう…
当番ノート 第54期
去年の秋、私はチャパティーを焼いていた。 チャパティー、正式にはチャパーティーと言った方がいいのだろう、それはインドの家庭料理で、無発酵の薄焼きパンである。イメージとしては、トルティーヤやケバブを包んでいる皮に近い。チャパティーは、それらと同じくらいの薄さだが、薄力粉でなく全粒粉を使うため、より素朴な味だ。白米と玄米のような違いである。ダール(豆カレー)やサブジ(野菜等のスパイス炒め)などと共に食…
当番ノート 第54期
みなさんこんにちは、イラストレーターの高松です。 この連載は神奈川県の西の、山の途中にあるあなぐらのような自宅にて、ボイスレコーダーに録音したトーク内容を書き起こして投稿しています。全8回の2回目です。 – 移動中は何もしていなくても許される気がする。 旅行に行くときはなるべく夜行バスを使う。座席が指定できる時は窓側を予約して、消灯になるのをじっと待つ。バスが高速道路に乗って車内が寝静…
当番ノート 第54期
マニキュアを衝動買いしてしまった。ターメリックとシソ、という色を。ターメリックは山吹色を少し明るくしたような色。シソは煉瓦色、というには暗く、やや紫がかった茶色という風情だ。 この、赤茶色というか赤褐色というか、赤と茶色の真ん中くらいの色、気付けばマニキュアにも口紅にもこの色が多い。好きで集めているというわけではなく、自然と集まってきている。 煉瓦色はモディリアーニを連想させる。最近横浜美術館で見…
当番ノート 第54期
「ポップミュージックというものは、いつ爆発するかわからない時限爆弾みたいなものだ。爆発するのはいますぐじゃなく、遠い未来かもしれない。でも、いつかどこかにいる誰かのところに届くことを信じて曲を作るんだ」 昔読んだ音楽雑誌で、誰かがそんなことを言っていた。誰が言ったのかもう忘れてしまったし、ほんとうにそういう発言が存在していたのかもはっきりしないのだけど、ずっと記憶の片隅にある。 音楽だけでなく、多…
当番ノート 第54期
大切な人を想って生み出されたものは、自分のことだけを考えて作ったものよりもずっとしなやかで誰かの記憶の中に力強く存在して続いていく。 そんなこと知らなかった。 これは煙草くさい階段で静かに泣いていたあのひとのこと。 数年前に新宿のギャラリーを借りて写真展をした時の話だ。 そこはメインギャラリーとサブギャラリーという、大きさの違う二つのスペースが隣り合わせになっている部屋割りで、一度に…