当番ノート 第11期
「俺の生き様を見てくれっ!」で、他人に共感を得てもらうより、生き「てる」様「子」。すなわち、その人が粛々と生きている様子、またはその人のなんでもない日々の営みが共感される方が、素敵だと思う。 誰もが見ていない所で何ができるか。相手あってこその自分基準をどう磨くか。この先の課題です。
当番ノート 第11期
もうすぐ、クリスマスです。 神社へ行き、お寺へ行き、ハロウィンで仮装し、クリスマスを祝い、 というか、クリスマスに託つけてお祭りをたのしみ、2月14日にチョコレートを贈る、 このちゃんぽんな感じは、わたしが好きな日本のチャームポイントの一つです。 その姿はときに軽薄に見えるかもしれないけれど、 どちらの神様が正しいかとか唯一かとか争うわけではないから、平和でいいなと思うのです。 電車の中で寝ていた…
当番ノート 第11期
あらゆる種類の緑をしみ込ませたような森があった 豊かな地表を覆う和毛のような苔は 幾星霜も年輪を重ねてきた木々の幹を優しく包み込んでいた 常に霧がたれ込めていたため その色彩の深さと豊かさとをつぶさに知ることは容易ではなかったが 1年の中で限られた時にだけ 緑の天井のわずかな隙間から漏れ出した日の光が森を照らした 幾度も濾過された柔らかな光と森自身が育んできた柔らかさとが 出会い膨らみを増し 地表…
当番ノート 第11期
ちゃらんぽらんな夜を過ごして その次の夜はひとり落ち込んだりしてさ じゃあやめとけばいいのに 夜と また夜と、夜と夜とがさ 床が回転して つぎつぎ場面がかわるお芝居みたいだよ 夜のコンビニで 無数のチュッパチャップスが刺さった、くるくる回る販促台を見ながら そんなことを考えていた なにかを買いに来たつもりだったけど、 忘れてしまっ…
当番ノート 第11期
1992 眇眇たる世界。豊富な言動。無用の尽力。十分な口述。過去は忘れ、未来は推測にすぎない。 今しか見ないあの人。ただ。目覚まし時計のように鳴き、騒音のように吠える。 ぎりぎりのところで理性は復す。 1997 二番目に暗くて静穏で無愛想なあの人は誰よりも沈黙の主張と独自性を有していた。 私はもっぱら、視野を限りなく狭め、誰にも気付かれないように、観察した。それはただの予想に過ぎなかった。 妄想が…
当番ノート 第11期
初めて泊りがけで登った山は、赤石山脈の光岳だった。 小学校1年、楽しみにしていた初めての終業式を欠席させられ、両親と山仲間に半ば無理やり連れて行かれた格好だ。 夏休み初日は山の中、という思い出深い数日がスタートしたのである。 当時は寸又峡からの林道は崩落しておらず、車でガタゴト揺られながら登山口まで到着した。 そこから、寝袋とおにぎり・水筒を小さなリュックに入れて、長く続く登りを大人たちに混ざって…
当番ノート 第11期
先日、横浜美術館に横山大観展を見にいった。 描かれた葉の紅葉する緑と黄色の間がとても切なく美しかった。 その腐ってしまいそうな刹那がなんだか懐かしかった。 同館のコレクションにダリの絵があった。 ———————————— 初めて持った画集はサルバドール・ダ…
当番ノート 第11期
ボールペン シャープペン 鉛筆 「書ける」という事は同じでも、伝わる印象に大きな違い。 ちょっと動かす 少し動かす 微妙に動かす 「動かし方」一つにしても人それぞれ捉え方のニュアンスや表現は違う。 僕は最後の微妙というのが、その人が持っている「その人自身の集約された感覚」だと思っています。 宿で一番に気を使うものは何か。一番緊張する事は何か? それは、お客さんがお部屋にいる際にドアを「トントン」と…
当番ノート 第11期
たくさんの路地裏をみました。 あの人は、薄明かりの下の風景が好きでした。 以来、わたしは、 この薄暗い道を奥へと進んだところにも、 エネルギーがあるのだと思うようになりました。 たくさんの笑顔をみました。 その人は、街へ出ては人の顔ばかり撮るのでした。 美しい女性、美しい笑顔、化粧のはげた顔、怒った顔。 時々、体の一部がない人のポートレイト。 以来、わたしは、 笑顔の中にも時折奇妙さを見るようにな…
当番ノート 第11期
夜になると煌びやかなネオンで彩られる町も、昼間は驚くほど閑散としている。夜の間に放たれた下卑た匂い。理性から解放された生き物としての人間の匂い、生臭さ、駆け引き。町を満たしていたそれらが、夜明けとともに静かに辺りに染み込みこんでいく。地面に、建物に、家路に着く人の体と魂の中に。そうやってできた、おりのたまった町。太陽や月よりも人の作った光が似合う町。私の育った町もそうだった。雨のしのつく午後3時。…
当番ノート 第11期
星がきれいだった だからわた この道はタバコを吸ってはダメです って、 そういうふうに言われたら 嫌いなタバコをもくもく吸って歩きたい 持っているゴミをばら撒きながら歩きたい し そういう気分 わたし酔っぱらって 寝過ごしてしまって、 降りたこともない駅で、 普段ならタクシーに乗ってしまうんだけど 2時間も歩けば家に着くだろ…
当番ノート 第11期
たどり着けない振動で回り続けるクリック。 目を覚ますとそこにはたどり着けない。 目を覚ます前。 開闢のネグレクト。 眠りに就くとは、目を覚ます。 バスの中のバス停でバスを待つ。 夢そっくりな現実が夢だった。 瘡蓋から流れるタイムライン。 鞄の中の階段を上り、二階にまつわるいくつかの地獄が、遠くの広場で終わりを告げる。 机の上の砂漠が対角線を求め、熟されたゴミ箱はコピーされる。 振り返れば振り返る程…