当番ノート 第53期
八日町商店街にある亀屋商店さんは陶器などを扱ううつわ屋さんです。元々船乗りだった店主さんが結婚後、奥様の家業であったうつわ屋さんを継いでいます。食器などを販売する店舗部分の入り口は上の写真の奥の部分にあるのですが、手前側が打ち合わせスペースの入り口となっていて、その独特さにみなさん驚かれるだろうと思います。 ちなみにこのテーブルの脇に店舗部分への通用口も設置されていて、かめこやさんは店舗にお客さん…
当番ノート 第53期
小学校の入学式で初めて目にした同級生・Uの姿は、幼い私には別世界の住人のように感じられた。日に透けると赤みを帯びる柔らかそうな長い髪、白い肌、整った目鼻立ちにすらりと伸びた腕と足――平たく言えば美少女である。比喩としては陳腐だが、「こんな人形みたいな女の子、本当にいるんだな」という印象だった。 一学期が始まると、休み時間には彼女の周りに人垣ができた。そりゃ、美しいものは間近で眺めたいだろうし、あわ…
当番ノート 第53期
昨年の話。つい、新規開拓がしたくなったため、近所の居酒屋をふらふら歩きながらお店を探していた。時間も遅かったので、たまたま開いていた居酒屋に入った。3階建ての2階にあって、その上には怪しげなスナックがある。細い螺旋階段をのぼると、お店に着いた。 「こんばんは〜まだやっていますか?」 暖簾をくぐりながらそう言うと、あれ? 返事がない。閉店の片付けをしているのだな、諦めて外に出ようとしたとき、奥の部屋…
当番ノート 第53期
オーディション番組を見ていると、「チャームポイントは笑顔です!」と元気よく言う女の子が本当に多いのだけど、そんな相手に対して心の中でいつも「本当にそれでいいのか?」と問いかけてしまう。 彼女らは歌とダンスでわたしたちを魅了してくれる。と同時に「恋愛禁止」を公約のように掲げて、そのせっかくの武器である笑顔を恋や愛には使用しないらしい。 夢と恋愛を天秤にかける残酷さも知らずに、6歳のきみは「アイドルに…
当番ノート 第53期
2018年、再び飛行機に乗り遅れた。 飛行機に乗り遅れるのはこれで三度目だった。 最初は高校3年生のとき、大学受験を終えて東京から帰る便だった。宿があった飯田橋から、羽田空港に向かう経路の選択を間違えた。多分、各停とか快速とか急行とかいった電車用語への理解がなかったので、どこかで遅い電車に乗ったのだろう。空港に着いた時には定刻25分前で、保安検査場が締切られていた。 振替の便の席を翌朝に用意しても…
当番ノート 第53期
前回、私が寸借詐欺師と(半ば意図的に)遭遇した話を書いた。私自身が納得したうえでの行動あっても、相手を増長させ、新たな被害を生み出した可能性も否定できないと認識しており、現在は深く反省している。これを「借金」にすべく、次回1000円を回収する決意を心新たにした。 さて、今回も横浜中華街でのできごとについて書かせていただく。薄い鉛筆の殴り書きのような記憶の中、そこだけがくっきり描かれ、彩られた壁画の…
当番ノート 第53期
2014年、長い長い大学時代を過ごした関西を、就職のため離れ、上京することになった。ただ、別に初めての東京だというわけではなく、学部時代に某省の研究機関(和光市)で研究をする機会があったので、1年くらい和光市と関西を往復する日々を送っていたことがある。研修で訪れた人が宿泊する寮みたいなところにしばらく住んで、気が向いたら西に帰って研究し、タイミングが来たらまた上京。端的に楽しかった、お金ももらえる…
当番ノート 第53期
きみは次の春が来たら、これまでのお友達とはさよならをして、ひとりこの町の小学校へ向かう。わたしの仕事の関係で引っ越し後も上手く転園できなくて、きみは6年間、隣町の保育園に通っていた。そこでたくさんの友達ができて、いつも帰りの車内では「今日は誰と何をしたか」をこと細かに教えてくれた。 みんなとは3月でお別れなのだと説明はしているものの、きみは学校が離れても友達のままだと信じてやまない。その証拠に、「…
当番ノート 第53期
2010年、モスクワ・シェレメーチヴェ空港。 初めての海外旅行で、僕はウィーンへ向かう飛行機への乗り継ぎに失敗した。 幸いにもこの日、同じ理由でモスクワで夜を明かさなければならなくなった人が20人ほどいた。世界各地から集められた20人は、まずホテルのロビーらしい場所に通される。 “トゥゲザー?トゥゲザー?ノー?” いかつい制服の青年が、同じグループっぽい集団ごとに声をかけながら、客の組数を数え歩い…
当番ノート 第53期
タンポポの綿毛のようだ、と言われたことがある。 と言っても、ふわふわで可愛らしいという意味合いではなく、いつどこに飛んでいくともしれない、ひとところに根を張ることがなさそう、というイメージらしく、似たようなことは何度も言われたことがあった。要するに、根無し草だ。 しかし実際の私はさほど引っ越しの経験はない。22歳で親元を離れるまではずっと同じ家で暮らしていたし、35歳で帰郷してからも、同じ地域で暮…
当番ノート 第53期
突然だが、数年前に買った真鍮(しんちゅう)のボールペンが臭い。おまけに色もちょっと汚い。購入したとき、店員さんは「経年変化(エイジング)」で味が出るからと言ったので、自分が老けるたびにこのボールペンも老けていくのだなあと感傷的な気持ちになって買った。それが今、ちょっと汚くてサビ臭いのを我慢しながら使っている。何年かすると色もにおいも馴染んでくるのか。そして、これを味わいというのか。というか、味わい…
当番ノート 第53期
昔、きみを産んだとき。どういう話の流れだったか「へその緒を切る時は母体も赤ちゃんも痛くないんだよ」と誰かから言われ、その後に続いた言葉が「髪の毛と同じで」だった。 へその緒と髪の毛が医学的に同じとは思えないけど、その時は「そっか、それならば反対に、”髪の毛切っても痛くない”ってことの方が不思議だな」と感じたのを覚えている。 髪の毛は体の一部なのだけど神経が通っていない。神経…