当番ノート 第47期
天にまで届くような鳥の鳴き声、湿気で白く光っている空中の水滴、河原いっぱいに飛ぶ綿毛みたいなカゲロウの羽ばたき、文旦の花の砂糖みたいな香りも。写真で撮れない事が、たくさんある。 目の前いっぱいに広がるようにみえるのに、カメラから覗くと小さくみえてしまうことがある。明るく見えるようでもレンズ越しに見ると光が足りなくてうまく映らないこともある。写真の中にとどめてしまうのをためらう事もある。 でも、どう…
当番ノート 第47期
(前の話) 洋子はワタシの天使なんだ。会社でたった一人の同性の同期。気が強くて、納得いかないことがあると真正面からぶつかっては傷つき、ぶつかっては傷つくワタシを、洋子はいつだってそのまま肯定してくれた。「そうそう係長ほんとクソだよねー」なんて軽はずみに同調もせず、「そんなことより駅前に新しくできたパティスリー行かない?」とかあしらわずに、「美央は正しくないけど、間違ってもいないよ」「私は美央を応…
当番ノート 第47期
「言葉の拡張」として、おもむくままに続けてきた連載もあと二回で終わるらしい。あっという間だった。「週に一度何かを提出する」という行為自体がかなり久しぶりのもので、新卒すぐからフリーランスとして働いている身としては「一週間」の感覚さえ薄く、だから、毎度毎度ギリギリになって企画を捻り出しては提出するというひどい体たらくであった。 いつもは、PRなどの職業柄もあってか、こんな風に「何か」を作る際には入念…
当番ノート 第47期
クロールの息継ぎは、難しい。 ブクブクと泡を立てて息を吐いて、顔を横向けて息を吸って、足はばたつかせながら、手は回しながら。 なんてマルチタスクをしているんだろう、と思う。 現代の世の中もそんな感じだから、しんどいのかもしれない。 生きているのが当たり前の世界、浮き袋を持っているのが当たり前の世界。 誰だって生きづらさを感じているはずなのに、誰もが隠すのはどうしてだろう。 見えやすい砂袋を持った人…
当番ノート 第47期
11月11日の今日は誠の命日だった。無限に流れる過去から未来への時間の中の、全く違う今。2014年11月11日から時間が流れて、2019年11月11日になった。 1回目の11月11日は、職場で一日中事務作業をして過ごした。次は、おばちゃんと小籠包を食べに行った。その次は、四国で個展準備の日だった。搬入を終えて、おばちゃんと露店でご飯を食べた。去年は、おばちゃんと肉を食べに行った。命日がただ過ぎてし…
当番ノート 第47期
みんないろんなことを言う。 あなたは何を言う? 私は何を言う? 言葉にしないと伝わらないけど、言葉はいつもうそつきだ。 どんなに言葉を尽くしても、私の気持ちは表せない。 私とあなたは違うから、見ている世界も、使う言葉も違うから。 「ラーメン」って言われて、想像するもの違うでしょう? 私は夜鳴きで、あなたは家系だったりするでしょう。 そういうすれ違いで、きっと傷つく、傷つけ合うことは避けられない。 …
当番ノート 第47期
わたしは、「絵を描く人」のことを心底尊敬し、羨ましいと思っている。 ここでいう「絵」は意味合いとしては「画」のことで、デザインや写真作品なんかも入ってくるかもしれない。 絵は、速い。 絵は、つよい。 瞬間的に、受け手の心に届けることができる。言葉よりもずっと多くの印象や情報で、心をゆらすことができる。 中学生の頃から、絵を描ける友人を心底尊敬していた。 わたしの拙い文章力で説明する世界観を、彼女は…
当番ノート 第47期
秋だな、と思う。 勢いを増してきた食欲、重さを増してきた布団。 ハラリと落ちるのは紅葉、フワリと浮かぶのは鱗雲。 冬だな、と思う。 在学中の通信制大学は、後期が始まった。 今は4年生だから、最後の授業が始まっていく。 「最後」と聞こえはいいものの、単位が取れなければ卒業は先延ばしだ。 大丈夫だろうか、ふとそんな自分の声が聞こえる。 徐々に、沼は凍っていく。 人々は寒さを耐え凌ぐために、人恋しいと嘆…
当番ノート 第47期
1994年の9月、妹が生まれた。 私は小学校3年生で、夏休みが終わってすぐの土曜日。 私と2つ下の妹は、いつも別に暮らしているおばあちゃんに起こされた。 まだ生まれてないよと言われて朝ごはんをのんびり3人で食べてから、 おばあちゃんの車で隣の町の病院まで行った。 病院に着くと、まだ名前がない、初めて見る赤ちゃんがいた。 妹が生まれてくるまでの日、赤ちゃんがお母さんのお腹の中を蹴るのをさわらせてもら…
当番ノート 第47期
久しぶりに実家に帰る。意識的に街を見回すと、少しずつ建物が入れ替わっている。 西友の前にあった駐車場持ちの広いサーティーワンは、半年前ほどにマンションのモデルルームになっていてビックリした。なくなってしまったかと思ったら、隣の隣の隣、二回りほど小さなテナントに移転していた。ただでさえ多かった美容室は、最近また増えている。 更地がある。前にそこに何の店が入っていたか、思い出せない。随分前になくなって…
当番ノート 第47期
言葉を使ってものごとを伝えようとする時に、わたしたちは無意識のうちにそこに「時間」を読み取っている。 さしだされる言葉のまとまりは、時間軸を過去から未来へと進める。少なくとも読み手は、意識をしなければ自然とそのように理解をして読み進めていくだろう。事実、こうして文章を読んでいる間にも時間は進んでいる。細胞の分裂や生命の呼吸と、言葉という存在は近しいものなのかもしれない。 文章には、「文節」や「単語…
当番ノート 第47期
無知は、生きづらさを作る。 「そんなことは、あり得ない」 そう大人は言うけれど、果たして本当にあり得ないかどうかなんて 世界の誰もが全く知らないことだ。 「そんな人は、どこにもいない」 そう大人は言うけれど、果たして本当にどこにもいないかどうかなんて 発言した人は全く知らないことだ。 本当は、ここにいるのに。 僕はそうやって、息を止める人生を過ごしてきた。 誰かの真似をするように、そっと息を潜めて…