当番ノート 第57期
梅雨ですね。 幼い自分の想像によると二十歳のおねえさんは、すらっとしていて、働いて一人暮らしをしていて、おしゃれな小物を持ち、上品なお化粧をしつつ落ち着いた所作で生活しているらしい。 さてアラサーの私、働いて一人暮らし、しか当てはまらない。 小さい頃の夢ってなんて残酷なんだ。 「アラサーなんだからそろそろしっかりせにゃ」と私に思わせたのは、恋愛でも結婚でも出産でもキャリアアップでもなく「いい雨傘を…
当番ノート 第57期
驚くなかれ、採用面接の真っ最中に落とされたことがある。 聞く限り、身の回りでそんな経験をしたのは私だけだ。 帰宅する頃には結果を送ってくる企業はあれど、まさか会場で落としてくるとは。 志望はとある老舗文具メーカー。 ちょっと古風でお堅い感じはあるけれど、文房具は好きだし押さえておきたいなと思っていた企業である。 トントンと駒を進めていき、ここを突破すれば社長面接、すなわち最終面接というところまでき…
当番ノート 第57期
ほぼ毎日「誠に申し訳ありません」と書かれたメールを、両手では数えきれない数送っている。タイトルはそんな私のお気に入り謝罪文のうちのひとつである。 ちょっとした食い違いなどが起きてしまったり、名前を打ち損じていたり個人的に「危険度中」認定レベルの事態に使われている。メールを打ちながら自然と眉間にシワが寄って、送信ボタンを押す時には無意識に息が止まる程度のそれ。 あまり行き届かない人間であるために謝罪…
当番ノート 第57期
唐突だが、日本で一番真面目にお姫様ごっこに取り組んだ女児であったと自負している。 幼稚園児の頃、ディズニープリンセスの小物を身につけキャラクターになりきる友達を見て(それはお姫様ごっこって言わないんだよな〜)とちょっとした違和感ををおぼえていた。 貴女方はお姫様ごっこではなく「ディズニープリンセスごっこ」をしているに過ぎないの。本当の「お姫様ごっこ」は自分の中にある姫マインドを極限まで引き出して、…
当番ノート 第57期
両隣り、できれば上下にご挨拶するのが引っ越しのマナー。 さて、短期滞在ではあるものの、入居して当番ノートを書かせていただけることになったのだから、しっかりご挨拶せねばならない。 *** スズキコトハです。都内で勤め人をしています。誕生日は12月の射手座で、結婚・出産・キャリアアップという言葉に敏感なお年頃。血液型はB型です。 *** 出来心でカタカナで名前を検索してみると、詐欺師の方が…
当番ノート 第56期
「序」「破」「Q」と来て、「襲来」「渚」「Air」「まごころを、君に」。そして、「シン」。最後は「世界の中心でアイを叫んだ落とし物」で終える。おめでとう。「序・破・Q」から振り返ろう。 落とし物やごみなどの地面に転がっている物には、落とし物やごみの落とし主・失くし主(そして、ポイ捨てした奴)の面影が感じられる。落とした人、失くした人の抱える寂しさが、ぼんやりと感じられるのである。私が「地面」の写真…
当番ノート 第56期
9 凪子 ナラザキくんにフラれたその日、わたしは、久しぶりに泣いた。学校の、女子トイレの個室で、声を出さないように気をつけながら、しくしくと泣いていた。わたしはこんなに悲しいのに、溢れ出る涙は暖かくて、それが余計に悲しかった。 ◯ どうして男の人と寝るのか、わたしにはよくわからない。でも、社長たちに抱かれている間は、少しだけれど寂しさを紛らわせることができた。わたしは寂し…
当番ノート 第56期
幼稚園の頃、運動場でよくする集団演技があった。巨大な淡いピンクの丸い布の端をぐるりと20人くらいの園児たちが持ち、それを空高く持ち上げる。風に当たってゆらゆらしてる布を宙に持ち上げながら、園児たちが音楽に合わせゆっくり円状に周っていると、急に音楽がぴたりと止まる。それを合図に、皆さっと内側にすべり込み、布の端をお尻で抑えて座る。空気をたっぷり含んでドーム状になった布の内側で、車座に座り上を見上げる…
当番ノート 第56期
地面と命について、やりたい放題に書いた。「人間」または「自然」が、「意図的に」または「自然に」干渉することで生まれる地面の上の違和感。それこそが、私たちの追い求める物である。話が整理されて、満足。 というワケにも。「私たち」って誰だよ、と。 さて、そろそろ私の正体を明かさねば。エヴァのパロディに頭を使いすぎて追い込まれている変な人ではない。何を隠そう私は、落とし物・ごみ写真投稿コミュニティ「地面の…
当番ノート 第56期
8 凪子の男(後編) 凪子と、将来の話をしたことがある。大した内容ではない。将来は何処に住みたいとか、どんなふうに生活したいとか、死ぬまでに一回はキャビアが食べてみたいだとか、そういう、他人からすれば本当にどうでもいいことを、俺たちは本気で話し合っていた。 「でも、将来は結婚したいな」俺は呟いた。 「うん。わたしも。いつかは」 「なあ、俺たち、結婚しないか?」 その一言を発した時、俺は胸が…
当番ノート 第56期
昨日の夕方、小腹が減ってしまったので、冷凍していた厚切りのバームクーヘンをチンして食べた。こないだお気に入りのパン屋さんに行ったとき、何個かまとめ買いして冷凍庫で保存していたものだ。30秒くらいチンすると、表面にコーティングしてあるチョコレートが少し柔らかくなり、しっとりした生地からふわりと甘い香りが立ってくる。フォークでちょっとずつカットしてコーヒーと一緒にゆっくり味わった。 ふとバームクーヘン…
当番ノート 第56期
「使徒、襲来」を捩り、「最後のシ者」を捩り、前回は無理矢理「Air」を捩った。エヴァをネタにして書き始めたのに、緊急事態宣言によって全国の映画館は閉館し、この「地面の命」が一人歩きし始めている。果たして、この状況下でまだエヴァを捩って遊ぶ意味があるのか。甚だ疑問である。 今回は「まごころを、君に」。遂に、捩るのを諦めた。テレビアニメ版の続編である映画のタイトルで、最終話としての位置付けである。「地…