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do farmers in the dark(22)

Do farmers in the dark

赤ッケイ

今月も娘と出かけた事をやっとの事で書いています。いつも来月こそはちゃんとやると言って今月も何もやらずみすみません。ではよろしくお願いします!

秋口

〈1〉散々な日々

散々な日々、散々な日々だよ。相変わらずラッキーな事ばかりだけども、ただ何となく悲しい。寒くなってきたからだ。寒いと悲しい。最近でいちばん楽しかった事は夢の中で赤黒いひまわりみたいな顔をした悪魔が途方もなく面白い事を言った事だ。

日本語ではなかったので最初はよく聞き取れなくて、悪魔の中でもかなり怖い部類に入る赤黒いひまわり型の顔面の悪魔(目や口は見あたらなかった)なのですごく怖かったのだけど、近づいてよく聞くと、今まで聞いたこともないような途方もなく面白い事を言っていたんだ。夢が覚めた後も布団の上で爆笑していた。でもメモしてなかったから、思い出せないのがとても残念。

思い出せるのは、悪魔はひどく反り返った急勾配のスロープみたいな道を乗り越えた先の十字路の左角の雑貨店の店主であり、地下室に私は連れてかれて何か話を聞かされた事だけだった。

ちょうちょのリボンをつけた獣型の人間と、キラキラの花のエフェクト

<2>私はひどく真面目で、消極的な性格なので、もうどの便器がいいかしか考えられない。

雨の日、私は4つある便器の中で1番イケてる便器を見つけて座った。その便器はすごく良かったよ。だってウォシュレットが誰かのお尻に跳ね返った形跡が無かったから。

でも便器を選べるなんて恐ろしく恵まれているよね。それとほんとに真面目な人は他人のウォシュレットが跳ね返った便器を率先して使うだろうし。

薄型液晶テレビがどの時間帯に見てもただの虹色にしか見えなくなった。あとあんなに単調でフラットな人型のモビールなんて飾っていたっけ?買った覚えがない。そんな日もあるよね。

<3>秋晴れ、娘と出かけたけど私はずっとメソメソしていた。ごめんね。

今日は秋晴れ。仕事は休み。私はいつもどおり口は半開きで、よだれを垂らしそうな具合だった。もう何年もよだれを垂らさなさそうな具合の日は無かった。2、3年前までは割とヨダレを垂らしていたんだけど、最近は少し大人になったのか実際にヨダレは垂らしてなかった。でもヨダレ以外のなんかは垂らしているかもしれない。しかし依然として脳が年中働いてない。たまに何かやる事があって脳を働かせると、あまりにも珍しい血流の量だから、脳がじんじんしてしまうほどに普段ボンヤリしている。

とりあえず晴れているので、もう4歳になる娘とおでかけしたくなった。どこかの渓流に行く事にした。適当に家から一番近い電車で行ける渓流を携帯で探した。最近はとても運がいいから、電車賃には困ってなかったんだ。電車乗り放題だ。でも新幹線に乗るのはかなり覚悟を決めないと乗れない状況だった。

とにかく、娘と山あいの渓流に行く。こんな良い日はない。だって渓流に行くんだから。素晴らしいに違いない。だって渓流に行くんだから。

電車にギィギィ、ギィギィ、ゴトゥ、ゴトゥ、と揺られ、渓流が近くにある、山あいの駅に着いた。

駅を降りるとすぐ渓流に着いた。大きな石が沢山あって、橋があって、川は程よく幅があり、流れが強く、涼しくて、まさに渓流そのものだったので私は満足した。川べりで石の上に娘と腰かけた。

私はいい景色だね。と言った。娘は珍しく同意して、気持ちいいね。と言った。(最近私に同意してくれる事はほぼ無かった。私が誤った事ばかり言っているからだ。)

石で水を切る様子を娘に見せてやろうと思って、何度か良さそうな石を手首のスナップを最大限にきかせて良い角度で放ったが、何度やっても石はまるで水面を跳ねず川に吸い込まれていった。

私は泣きそうだった。

娘は真似して、とても大きな石を持ち上げ渓流に放り込み始めた。すごい楽しんでた。渓流に大きな石を放り込むのは、なんだか乱暴でいけない事してるみたいな気がしたので、不安になってしまい、娘にちょっと石を放るのはやめてくれんかな?ちょっとやめて欲しい。お願い!と頼んでやめてもらった。

自分から石を投げ始めたのに、真似してくれた娘にやめてくれんかと言うなんてひどい親だ。

私はまたも、泣きそうになった。

実はもう2時ごろで、昼ごはんを食べてなかったので来る途中に買ったパンを食う事にした。娘と私は石に座って惣菜パンを食った。私のパンはジャガイモが入っているパンで、まるで美味しくなかった。なぜジャガイモが入ったパンなんて買ったんだろう。

娘はソーセージが入っているパンを食べていた。それがやたらとうまそうだった。

ジャガイモを食べるのがつらかった。涙が目に滲んできた気がする。

気づくと目の前でラフティングをしている団体が次々とボートで岩にぶつかりながら渓流を下っており、海外の人なのかやたらテンションが高かった。みんな何かイェー!、フォー!と叫んでいた。

テンションが高い人たちの、これまたテンションが高いインストラクターのような人に、現地の人ですか〜!?と声をかけられて、僕は多分現地の人では無かったので、いつも通り少しニヤついて(誰かと話すときはいつも少しニヤついているんだ。)いいや、違いまっす。遠くから来まして。と言った。

そうですか!と言って、その人達は下って行った。

また次のテンションの高いボートの一団が来て、やっぱり常に叫んでいる状態なんだけど、ついに私達にもイェーイ!と言ってくれた。僕は右手を上げて無言で挨拶した。

僕もイェィ!と言わないといけなかったんだけど、恥ずかしがりなので言えず申し訳ない気持ちでいっぱいだった。楽しんでる時に、何故かただ渓流を見に来て石を川に沈めてパンをモソモソ食べただけのテンションが低い人を見たら一瞬悲しい気持ちになるだろうなと思った。たぶん彼等は一秒ほど悲しい気持ちになり、1秒後にまた持ち直し楽しそうに叫び出したと思う。

娘はなぜ私たちがラフティングをしてないのか疑問に思った様子で、

「父ちゃん、あれ乗りたい」

と言った。僕は

「あれは、すぐには乗れないんだ」

と言った。

どのような経緯を踏んだらあの浮き輪みたいに膨らんだゴムボートを貸してくれるのか分からなかったし、娘くらい小さな子供が乗れるのか分からなかった。

娘はやはりなぜ私達がラフティングをしていないのかひどく不可解に思っている様子だった。当然の疑問だった。私達は石を川に沈めただけ。さみしそうな顔をしていた。

私はまた泣きそうになり、目に涙が滲んだが、口元はいまだニヤけていた。

僕は娘に、そろそろロープウェイに行こうか。日も暮れてしまうから、と言った。渓流をあとにし、恐らく3キロくらい離れているロープウェイを目指し歩き始めた。

少し歩いたところで、ラフティングのインストラクターがいて、道具が集められている場所があった。娘はあそこでさっきのボートに乗る方法を聞いたらどう?と言った。

しかし僕は道の反対側にあるから、との理由で帰りに聞こうと言った。インストラクターの人がかなり体格が良く日焼けしていたので、聞くのが怖くて、後回しにしようと思ったんだ。ひどい親だ。もうひどい事を出かけてから何回もしている。私はまたも泣きそうになった。

引き続きロープウェイを目指し歩き始めた。

けっこう歩いた。思ったより遠く、歩道が狭くて車が結構通るので歩きづらかった。

しばらくして娘はトイレに行きたいと言った。初めての土地なので、トイレがどこにあるのか私は分からなかった。私は車を持ってない事をすごく悔やんだ。思えばいつも車を持ってない事を悔やんでそれを繰り返し書いている。一瞬今までのぐうたらを後悔しようとしたが出来なかった。今後もできればぐうたらしたいと思ったんだ。それと、たとえ僕が頑張って車を持ったとしても、旅行先で駐車場が見つからずまた泣きそうになるだろう。でもそんなことよりとにかくトイレを探さないと。いつのまにか天気は曇っていた。

娘にその辺の草むらか河原で用を足してもらえばいいんだけど、そんなに明るい気分では無かったので、やはりトイレを探す事にし、運良くごはん屋さんらしきものがあったのでそこでトイレを貸してもらう事にした。娘を担いでごはん屋さんに走り込んでいた。

ごはん屋さんは、かなり混乱していた。店員さんは今日は予想外に客が来てしまった。どうしていいか分からない。色んなことの順番が分からない。という顔をしており、そんな店員さんに対して、

「申し訳ありませェェェん。トイレをお貸りできませんです?すみませんです」

と、私は言い放った。店員さんはとても混乱した様子であちらにありますと言ってくれた。

混乱した店員さんにトイレを貸してくれと言うのは非常に勇気のいる行為だけど、トイレを貸してくれと言わざるおえなかったんだ。

無事にトイレがすみ、そして私もついでにトイレせてもらい、ちょっとスッキリして、ちょっと申し訳ない気持ちで、私達はまた歩き始めた。

少し景色が変わり、山の中に入ったようでもう車はあまり通らなくなっていた。娘はロープウェイにまだつかないの?と言った。私はあとちょっとだよ、と言った。実はこのやりとりは10回目くらいで、なかなかの坂道をずっと歩いていた。娘は何度となく抱っこをして欲しいと言っていた。

私は抱っこしてはまたおろしたり、時には心臓が破裂するからとか、時にはもうすぐ膝の皿が壊れるからと言って断ったりを繰り返していた。いつも自分の心臓をいたわっているんだ。

看板にあと800メートルと書いてあった。もうすぐだと思ったがさらに坂がきつくなってきた。

娘は、たった今とても幸せではないという表情をしていた。泣くのを堪えているような表情だった。私は私と出掛ける人をひどく悲しませる。誰であっても。今日はそれが娘だった。娘は僕の巻き添えを一番くらっている。私はまた泣きそうになった。

やっとのことでロープウェイに着いた。ロープウェイに乗るための列が出来ていた。まずロープウェイの券を買った。列に並ぶのは嫌いだったので悠長にうろうろしてたら、娘は早く並ぶように私に促した。なんてしっかりしてるんだろう。えらいなあ。娘に従い列に並んだ。しかしロープウェイについたが、他の列に並んでいる人も列に並ぶのは嫌だなあ、という顔をしながら並んでいた。

そしてロープウェイの発車時刻になり、運良く座席に座ることができた。

ロープウェイが動き出した。ロープウェイの中は薄暗かった。以前もアパートメントに娘と別の山でロープウェイに乗った事を書いたが、その時と全く同じように、娘は

「父ちゃん、お山はどこ?」

と言った。以前と同様に、今まさに山の中だという事を伝えた。娘はそうなの。と言った。

今まさに山の中で、木に囲まれた斜面を登ってるだけだから、ただ暗い林を見てるだけで景色は良くなかった。山と山をつなぐロープウェイだったら良かったなあ、せめて木が無かったら良い景色だろうけど、木を切ってしまうのはいけないものねえ、そんな事を思っている間に山の上の方に着いた。

喫煙所があったので一服させてもらって、そのあとベンチに腰掛けた。曇ってたのでけっこう寒かった。とりあえず記念に娘の写真を撮った。娘は少し笑っていた。すごく曇っていた。

見晴らしがいいところがあったので少しだけ景色を眺めた。望遠鏡があったが、ウィルスの関係で使用出来ないようになっていた。

特にやる事が無くなった。リフトがあったので乗る事にした。私はリフトが大好きだった。数人のおじいさんがリフトの係員をしており、おじいさんにお金を渡して券を買ってすぐ乗るんだけど、なぜだかその券を買うシステムがよく把握出来なかった。お金をおじいさんに渡し、おじいさんは券とお釣りを私にくれた。よく分からないまま券とお釣りをポケットにしまった。

このリフトは1人用だからお嬢さんは1人で乗るかなとおじいさんは言ったんだけど、私は娘をリフトに1人で乗せるのはどうしても心配だったので抱っこして一緒に乗ることにした。ロープウェイとは違ってリフトはゆらゆらするから楽しかった。娘は初めてリフトに乗ったので、顔が真剣そのもので何か覚悟を決めているようすだった。

少し経ってリフトは終了した。だいぶ山の上の方に来たが、特に用事が無かったのでまた帰りのリフトに乗ってさっきの場所に戻る事にした。帰りのリフトにもおじいさんがいた。そのおじいさんもお嬢さんは1人で乗るのかなと言ったので、娘は1人で乗れるよ!と言った。心配だったけどすごく覚悟を決めている様子だったので1人で乗ってもらう事にした。娘はこわばった表情をして身動きせずじっと一点を見つめ私の一つ後ろのリフトに乗っていた。どこを見ているのかなあ。私は心配しながらもニヤニヤ顔で、リフト面白いね!1人で乗れるなんてすごいなぁ!と言っていた。その時の私の顔は、クソ野郎の顔をしていたと思う。まあ年中クソ野郎の顔をしているんだけどね。

そしてまた最初にリフトに乗ったところに着き、最初に券を買った時のおじいさんが、やっぱり1人で乗ってきたんだねえ、この子は絶対1人で乗れると思ったんだよと言った。私はそうなんだぁ、おじいさん達はリフトに乗れるか乗れないかよく知っているんだなあ、と思った。そしてまたその辺のベンチに座って、ぼーっとしていた。

霧がかかっていた。寒かった。

パンが残っていたので、娘に

「パン食べる!?」

と聞いてパンを食べてもらった。キナ粉がまぶされた揚げパンだった。うまそうに娘はそれを食っていた。

もう一回一服させてもらって、帰宅する事にした。

またロープウェイを待つ列に並んで、帰りのロープウェイに乗った。帰りのロープウェイも薄暗く、見晴らしは良くなく、薄暗くなったシルエット状の人達がたくさん乗っていた。私たちはまたも運良く座れたのだけど、混み合っているから立っている人もいた。山のふもとに着き、駅まで行けるバスに乗った。来る時はここまで歩いてしまったんだけど、それは失敗だった。バスに乗った方が良かったんだ。

そしてまた電車にギィギィ、ギィギィ、ゴトゥ、ゴトゥ、と1時間くらい揺られ自宅に帰った。

帰りの道中で娘は、父ちゃん、ボートのやり方聞かなかったね。と言った。

ラフティングのやり方を聞くのをすっかり忘れてた。帰りはバスに乗ってしまったので聞けなかったと弁明したんだけど、娘はその後もなぜ聞かなかったのかと私を叱責した。すっかり忘れていて、帰りはバスに乗った方が良かったんだ。と何度かまったく同じ弁明をして、その話は終わった。すごく不満そうな顔をしていた。かわいそうな事をしてしまった。また私は泣きそうだった。私の目は少し湿ったと思う。

最初に道の反対側に渡って勇気を出して聞いておけば良かった。近々娘とラフティングしないといけないな、と思った。値段が安かったら。

そして家に帰った。サザエさんに間に合った。

サザエさんについては見るたびに、よくもこんなにも面白い話が作れるなあ、どう脳を使ったらこんなに面白い話が作れるんだろうかと思って、いつも感心しながら見ている。

いつも骨を噛んで苦しそうなガールフレンドに、骨を噛むのをやめてみたらどうかと提案したら、よけいに骨を噛み締めてきた時のスケッチ。僕が彼女に骨よりマシなものを与えられていないからしょうがないよね。彼女のアゴは近々に壊れるんだろうなという時のスケッチ

<4>タックル

ああ、ほんと今日もとても最悪な日だったよ。足下はふらついて、致し方なく私は部屋じゅうの硬い柱に肩でタックルしていた。

悲しい事しか無かった。きっと私の心が常に悲しくちっぽけだからだね。

汚れたスプーンと冷たいうどんとモルモットと簡素なアトラクションの1日だった。つまり小動物の多い動物園と併設された公園とさらに併設された簡易遊園地と安い飲食チェーン店の事だが。娘もまた巻き添えにした。悲しすぎて詳細が書けない。とりあえず書ける事としては、私はメリーゴーランドの馬の横で突っ立って大きく回転していたという事だ。メリーゴーランドの馬に乗らずに、回転する地面にただ立ってる状況がある事を初めて知った。

すごく悲しいよ。年じゅうフィツジェラルドの短編集を読んでいる気分だ。

ぼーっとしてる事はとてもいい事も多いけどその分どこかで悪い事がある事を初めて知ったよ。

次の日になった。依然足に力が入らず私は部屋じゅうの硬い柱に肩でタックルしていた。

でもご飯はちゃんと食べた。美味しかった。おかずに塩がちゃんとかかっていたからね。

いつでもどこでも、僕がどんな状態でも、祖先の単弓類とはリアルタイムにすごく繋がってるだろうし、みんなもたぶんそうだと思うよ
夕方
木澤 洋一

木澤 洋一

ふと思いついた事や気持ちいい事や、昼間に倒れてしまいたいような気持ちを絵にしています。

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