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Do farmers in the dark(40)

Do farmers in the dark

ずっと住んでいる場所の山々が割と長い事にある時気づき、それはどうしてなのか幼い頃からしばしば、私を不安にさせる。主にカブを収穫した後、暇な時にしばしば。あとは単に暇な時によく。

チャリスがやってくる。それはまるでずぶ濡れのハイソックスのように。(4)

Do farmers in the dark(38)の続き

ほら穴チケットを作りほら穴へ客人を誘導するクァンツ木村(カンツ木村)

そして本日の客人、剛之ヒストリアン天狗キヨポン(ゴウノヒストリアンてんぐきよぽん)は脇毛を俵形ハンバーグ状に丸めており、賢そうで遠い目をした中年女性だった。

そんなこんなでカンツとキヨポンは目的のカンツのほら穴へ到着した。決して山奥ではない、坂のある雑木林の坂を少し上がると、少し開けた場所があり、奥を見ると低い山の腹に4つの暗い暗い暗い暗い穴があった。ここがカンツのほら穴だ。

少し湿った草60%、土5%、岩35%の比率の、主に草や岩の匂いが爽やかに漂っていた…

—–あらすじ終わり—-

「ようこそおいで下さいました、こちらがカンツのほら穴でゲス!」とカンツ。

「全く素晴らしい場所ですね。すごく暗い穴が4つもあるんですね〜」とキヨポン。

「その通りすごく暗い穴でゲス。1番右がありのままの捨てられた炭鉱か塹壕のような穴でゲス。入ると大きなボロ切れ、または小さなボロ切れが至る所に、ちょうど良い間隔で散乱しおりますでゲス。小ぶりのハンマーも落ちているでゲス。2番目は客間のような、ちゃぶ台が置いてあるほら穴でゲス。こちらにまずご案内させて頂き、くつろいで頂けたらと思いますでゲス。3番目は何も無い、暗くて細い道が続くほら穴でヤンス。とても怖いでゲス。あまり奥までは行けないでゲス。4番目のほら穴はカマドウマや、カマドウマのような節足動物がたくさん暮らしているほら穴でヤンス。カマドウマが大変に好きな友人がいるのですが、私はちょっと角や足が痛そうで、怖くて入れないでヤンス。」

カンツは手短に4つのほら穴の特徴を説明した。

キヨポンは「ワァ〜オ」と言った。

カンツはニッコリ、ニコニコしていた。昼下がりの太陽があたりの雑木林の木々をうす黄色く照らしていた。

「それと最後にもう一つ、このほら穴の周辺にはナント、運が良ければですが…狂老人(キョウロウジン)さまが現れるでゲス」

「あら〜まあ!それはなんてありがたい事なんでしょう!カンツさんのほら穴に来て本当に良かったわ」

「でもいけない!私おまんじゅうを持ってない!もしお目にかかれた時はどうしようぅ〜…」

「おまんじゅうならたくさんクーラーボックスに用意してあるでゲス!1つお渡ししますデゲショウ。」

「本当ですか!?助かります〜。もしお会いできた時おまんじゅうが無いなんて残念で残念で、残念で、なんというか…残念な気分になっちゃいますからね!」

「私はうっかりものでヤンして、何度かおまんじゅうが無くてとても残念な気分になってるでヤンス、そんな時いったいどうしたらいいのか…途方に暮れ風邪をひくことくらいしか出来ませんでヤンスな。そんな事もあり、近頃はクーラーBOXにある程度の個数の、格安スーパーで買ったおまんじゅうも入れてるんでゲスよ」

キヨポンは「ワ〜ォ」と言い、カンツはニッコリし、既に担いでいたクーラーBOXの中から饅頭を取り出して、キヨポンに渡した。饅頭は茶色い皮にあんこが入った饅頭で、張りのある透明のビニールに包まれていた。カンツはチラリと、他に4、5個ある饅頭のほとんどが、他の荷物でグッチャリと潰れているのが見えたが、それについては見た瞬間に忘れた。カンツは冷酷無比な悪魔めいた男だったのだ。

カンツの住む世界では、狂老人は社会階級の中でもっとも高位の存在で、老人かつ、おもにどこかしらの人目につかない低山や雑木林に住んでおりめったにお目にかかれない存在だった。そしてまた、自活しない狂老人もおり、自活しない狂老人もまた、位の高い存在で、おもに住宅に住み、様々な人間が頃合いを見てその老人をいともたやすく尋ねるし、様々な老人が誰かしらにいともたやすく尋ねられていた。いともたやすく尋ねはするが、みな高位の存在にあらん限りの敬意を表し、少し緊張し、心のこもった挨拶をのべ、名を名乗り、自活しない狂老人の第一声を心待ちにした。ほとんどは尋ねた人を慮る言葉が発される事が多かった。もしくは本日、現在の気温に関する言葉が多かった。どうしてなのか饅頭を差し出す通例になっており誰もかれもが差し出すそれ、差し出されるそれが高額な金品ではなくスーパーで買った安い饅頭である事を疑わず、皆それに習っていた。狂老人も、または自活しない狂老人もそれぞれ献上される饅頭をどこか小さな空間や隙間にそっと入れたり、または静かに、またはむしゃむしゃと音を立てて食べたり、または饅頭を受け取らず丁重にお断りしたり(このパターンが1番多い)、またはありったけのエナジー、カロリーを使い天地または天地の間のフリースペースに向かって放り投げたりした。その後人々はみな静かに声を待ち、その一言一言を一字一句聞き漏らさないようにしていた。運良く何かを依頼されたらできる限り依頼に応えた。狂老人に家族がいた場合、その家族はある日自分の家族が狂老人という高位の存在になった事について、今までと変わってしまったと悲しみに打ちひしがれて辛い思いをする者が多かった。またはあの人は思い返せば18の頃からほとんど狂老人だったから全く今も何も変わっていない、年齢と呼び方と地位が変わっただけだと平然と言うものもいた。

「さて、キヨポンさん、まずは客間へ入ってくつろぎましょうでゲス。私は説明が終わったらこの辺りでボンヤリしているでヤンス。」

カンツはクーラーBOXを持ち、天狗キヨポンを客間である2番目のほら穴へ案内した。真っ暗な穴に入りカンツは懐中電灯を持ち案内する。ひんやりした、湿度のある岩のにおいがする。穴に入ってすぐ、2、30秒歩いたところで4畳半程度のドーム状の空間があり、土や岩の湿った冷たい匂いがする。カンツはちゃぶ台の上の小さな電池式ランタンを着けた。

「うゎーお、何だか落ち着けそうな空間ですね。ここでしばらくゆっくりさせて頂いてもいいですか?」

とキヨポンは言った。

カンツは

「もちろんでゲショウ!」

と言い、クーラーBOXの中からジュースやお茶、お酒などを取り出して机の上に置いた。それとスーパーのビニール袋に入れていたお菓子や、紙コップ、初めて買ってみた格安葉巻をちゃぶ台に載せた。

「お菓子やら飲み物やらあるんで、好きに食べたりしてくつろいで下さいでゲス!葉巻もどきみたいなのを今日思いついて買ってみたんでゲスが、吸われる場合はこちらのライターとそこの灰皿を使って下さいでヤンス」

「色々ご用意くださりありがとうございます。葉巻も頂きますね」

とキヨポンは応じた。

「では私は穴の外にいるんで、何か用事があれば呼んで下さいでゲス」

カンツは言い、ススススゥ〜と忍者のような足取りで、ほら穴の外に出た。

カンツはほっとため息をつき、仕事のほとんどの部分が終わった事に安心した。あとはぼんやりするだけだ。ほら穴の前の、草の生えてないか土の上にお尻をつけて座った。

本当はキヨポンと一緒にお酒を飲みたいと思っており、格安葉巻も味見させて欲しかったが我慢した。ほら穴は1人でいた方が雰囲気があっていいかなぁ、と思っていたからだ。あと他に話す事が無かったからだ。俵形ハンバーグ上に丸めた脇毛の事についても車の中で聞けたし、他にはどのようにその脇毛を固めているか多少気になったのだが、恐らくそれについては十中八九、ごはんのような何かヌメるもの、ベタつくもの、ひっかかるもの、固まるものを使って丸めているのだろうと安直に考えていた。カンツは暴力的につまらない人間だったため、必要性が無い場合に人と話す事ができなかったんだ。何か人と会話をしている雰囲気は大好きだが、話している内容にまるで興味が無かった。そしてただ話している雰囲気を得るためだけに興味がない事を無目的に誰かに話しかける事を失礼な事だと思っていた。彼は明らかに誤った思考の持ち主、つまり単なる引っ込み思案だったのだ。

それと彼はたった1人なのにお菓子やお茶、お酒、今日はそれに加えて格安葉巻が用意されている客人の居心地の悪さは考慮してなかった。

秋の昼下がりの風が爽やかに雑木林一帯の木々をザワザワ、ガサガサと揺らした。カンツはいつもやっているパソコンゲームで神が落としてくる5パターンの形状の便器をどのように素早く正多面体にするかぼんやり考えていた。そうこうしているうちに小一時間ほど経ち、最終的にカンツは揺れる木々の数々の葉と光をなんと無く見ていた。光は黄色さを増し、夕方に近づいてくるように見える。カンツはウトウトしながらうっすらと瞼を閉じたり、半開きにしたり、また瞼を閉じたりしていたのだが突然、目の前に気配を感じた。

瞼を全開にすると、1人のネルシャツを着た老人が立っていた。明らかにそれは誰が見ても、狂老人だった。ズボンはグレーのなんていうかフワフワした素材で、やぶれかぶれの七分丈という感じだった。やぶれた箇所から糸がところどころ出ていた。綺麗な茶色の革靴と、光沢のある綺麗なブルーのネクタイをしていた。男性なのか、女性なのか分からない顔をしており、深いしわが何本もあり、なにか動物のようにも見え、スキンヘッドにスキンなアゴで髭は生えておらず、つぶらな瞳をしていた。驚いたことに色褪せたネルシャツにはFollow me という大きなロゴが入っていた。

カンツはすぐにその場で起立し、

「こんにちはデゲショウ。私はここに良く来るクァンツ木村でヤンス。またお会い出来て、光栄でヤンス」

と言った。

「これはこれは..お元気そうで何よりです。変わりはありませんかな?…

私は天翔けるコク・デキストリン次郎コク実(天翔けるコク・デキストリンジロウこくみ)と申します。…」

と狂老人であるあコクミは静かに、上品に言った。

「私は変わりありませんでゲス。お名前をお名乗り頂き光栄でヤンスゥ〜。素晴らしいお名前でヤンスね」

「ええ…えぇ…子供の頃は…この名前が嫌でしてねぇ…。コクが少ししつこいように感じてしまって…今ではしつこいのはいいことだなぁと考えが変わりまして….つまり何度も同じ事を繰り返し申し上げるのは良い事だと思ってましてね…私も含めほとんどの人間が若い頃ほど、まあ中年も若い頃に入るんですがね…とにかくまだ頭の回転も良くて体も割と丈夫な時ですよ……本っ当に若い頃ほどに、本っ当にすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぐぅぅぅ、様々な重要事項を忘れるもんですからぁぁ….マァ、忙しいからでしょうな…そんな具合なんでしつこいくらいがちょうど良いんです…コクの繰り返しのこの名前が年寄りになってくるにつれ好きになってまいりました…。結局繰り返し言わなかった事で、ホラぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ、やぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっっっぱり、忘れてござルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅこの御仁(ごじん)はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!……と後悔するわけですなぁ…..反対に繰り返し言っておけば、忘れていらっしゃったとしても、忘れていらっしゃるなあ….と気が済むわけです….クァンツさんは何か洋風な、おしゃれな名前ですなぁ…」

カンツは、

「滅相もありません…いやはや…何と素晴らしい…でゲス」

と言い、まったく私や私どもの事をおっしゃっていらっしゃる、重要事項を忘れないよう肝に命じなければ…重要事項…はて….愛とか、私にとっては大好きなバターでしょうか?と心の中で問いながら、

「今日は剛之ヒストリアン天狗キヨポンさんという客人もおりまして、もしもよろしければあのほら穴の中で少しくつろがれませんでヤンスか?」

と言った。

「それではお言葉に甘えさせて頂きましょうか…度々あのほら穴には世話になっておりますんで…..。あのほら穴のお陰でここでは話し相手に困らずに済んでいますよ….。」

「それはそれは…光栄でヤンス!」

とカンツは言い、狂老人さまであるコクミを2番目のほら穴へと案内する、入り口のあたりで、カンツは、

「お〜いキヨポンさん、狂老人さまがお越しくださったでヤンス!中に入ってもよろしいでヤンスか?」

と大きな声で伺った。

「どうぞ中に入って下さい!まさか狂老人さまなんて…光栄です!」とキヨポンは言った。

ちゃぶ台のある部屋にカンツとコクミは着いた。

続く〜

木澤 洋一

木澤 洋一

ふと思いついた事や気持ちいい事や、昼間に倒れてしまいたいような気持ちを絵にしています。

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