
俺が俺にビビる日
俺が俺にビビる。よくあることだ。
どこからか奇声が聞こえる。俺の声だったよ。
スチール製のヤカンに何か動く得体の知れないものが写っている。俺だったよ。
この空間、すごく嫌な雰囲気がする。俺がその雰囲気を作っていたよ。
道を歩いていると急にドブの匂いがする。俺の匂いだったよ。
地震かな?俺が揺れていたよ。
空き巣かな?俺が俺からありとあらゆる物を盗んでいたよ。
きな粉
きな粉を、あんこが入った2つのお団子に、隅々まで纏わせなければならない。ある日ある時、私はそう思って、そうしていた。
昨日は箱に6つのあんこが入ったお団子が入っていたのだが、今やその6つのあんこが入ったお団子は妻と娘が2つずつ食べ、残り2つ、私の分が残されていた。先ほどある日ある時と言ったが、正確にはある日の深夜2時頃だった。どの日だったのかは、残念ながら思い出せない。お団子が2つに対して、箱の中には割とたくさんのきな粉が広がっていた。私はきな粉が割とたくさんある事をとても嬉しく思い、胸をときめかせながらまるで団子の中の全ての方向から見て奥の奥の奥にある重なり合う数千もの異次元世界の中にある、とある1つの世界の中のある惑星の、ある砂丘の遠くに見えるいわゆる蜃気楼の中に現れた幻の摩天楼の一室で目にドス黒いクマを作ったサラリーマンを見るような焦点の合わない虚ろな目で2つの団子を数十秒見つめた。そして黙々と、隅々までお団子にきな粉を纏わせたのだが、それでもきな粉はまだ余っていた。私はもうこれ以上きな粉を吸着するような面が残っていないであろう団子を、2分ほどコロコロ、ズリズリ、グリグリと箱に広がるきな粉の上で転がしたり、擦ったり、押し付けたりして、より多くのきな粉を団子に纏わせようと頑張った。しばらくした後にこれ以上どんなに転がし、擦ったり押し付けても団子にきな粉がもうくっつかない事を理解して、私はついに団子に齧りついた。私は一度に団子を口に入れなかった。一口で食べてしまってはもったいないからだ。4/1ほど齧り、その断面にまたきな粉を押し付けた。そしてまた齧り、きな粉を押し付け、また齧った。そうするうちに団子は1つ無くなった。きな粉はまだ箱の中に広がっていた。団子はあと1つあった。そして2つ目の団子は先ほどと同じようにきな粉を出来る限り纏わせて、同じような動作を2倍くらいの速さでやり今度は2口ですぐに食べてしまった。きな粉はまだ箱の中に残っていた。そのきな粉を、私は焦点が合わない虚ろな目で見ながら、ゴミ箱にダンクしました。
その後はきな粉の栄養について携帯で検索し、きな粉についての情報を得たが検索し得た情報はなぜだか全て何から何まで間違いであるという妄想にかられ、全て忘れ去り満足して、歯磨きして寝ました。
タンク
僕の名前はタンク運び(タンクはこび)だ。13歳になる。いま僕は、父や母から何かオレンジの液体が入ったオレンジ色のタンクを運び、穴に向けてオレンジ色の液体を流し込む仕事を受け継ぎ、粉骨砕身の思いで、何かオレンジの液体が入ったオレンジ色のタンクを運び、穴に向けてオレンジ色の液体を流し込むために、自宅からその穴を目指して長い長い橋を歩いています。
父の名前は僕と同じタンク運び(タンクはこび)で、母の名前はタンクローリーです。2人ともとてもいい名前です。2人の事が大好きです。しかし2人が何を考えているのかは知る由もありません。少なくとも、僕にこのオレンジ色の液体の入ったタンクを運ぶ事を任せてくれたので、タンクを運んで欲しいと思っている事はなんとなく分かります。父と母と僕はとても仲良しで、いつもたくさんたくさん話しているのに、それ以外の事、つまり父と母が僕にタンクを運んで欲しいと思っている事以外は、全くもって分かりませんです。それはいたって普通の事であると心から思います。
そしてタンクは当然重いため、僕は今にも骨が砕けて粉々になりそうです。しかし骨は砕けていません、さっきから今にも骨が砕けそうだ、粉々になりそうだ、と頭の中で繰り返し嘆いているのですが、僕の骨は今のところまったく砕けてはくれないのです。それについては本当に良かったです。
ダンプが僕を追い抜きます。タンクをたくさん積んでいます。この橋は2車線です。僕は歩道を歩いています。
ダンプが羨ましいです。僕は2個しかタンクを運べないけど、ダンプは何十個もタンクを積んでいました。それなのに僕の何倍も速く、走り去っていくのです。ダンプの運転手になるにはどうしたらいいんだろうか、または僕自身がダンプになるにはどうしたらいいんだろうか、まったく分かりません。なので羨ましがるのはただちにやめました。
橋の下には海が広がっていました。そして空は雲ひとつない晴天でした。正直とても暑いです。先ほどから汗がダラダラと流れています。今すぐに気を失って倒れて、橋から海に転げ落ちてしまいそうだと思ったのですが、一向に僕の頭は気を失ってくれませんでした。それは本当に良い事です。
とにかく海が綺麗です。波の柔らかで規則的な立体感と規則的な光、素晴らしいです。
そんな海を見ながら、タンクを運んでいます。
(次回へ続く)
