わたしはとても単純だから、春の気配がし始めるとなぜがそわそわする。大した理由なんてないけれど、春がくる、たったそれだけで気持ちが色めき立つ。恋し始めの少年みたいな、照れくさくて、思わず小石を蹴りたくなるような、洋服の裾をもじもじと直すような。
春は何かと変化が多い。聴く音楽も変わるし、食べたいもの、出かけたい場所、やりたいこともどんどん変わる。親元を離れたのも春だし、パートナーとの出会いも春、今の仕事を始めたのも春。数えればきりがない。
春は芽生える。春は再生する。春は出発する。新しいことがどんどん始まっていくし、古いものはどんどん置き去りにされていく。暖かくなることの、抗えない力強さ。冬のうずくまった不安や憂鬱が、一瞬にして蹴散らされ、殻はいとも簡単に壊されてしまう。抱きしめられたら、逃げられない心地よさ。
わたしは、春の訪れが一年を通して一番好きだ。新年の花火より、春の訪れのほうがよっぽど気分が晴々する。コートを脱いだ分、身も心も軽くなる。こころがふくらんで、うちがわからからあつくなってくる。春の数を数えて、また新しい自分に出会っていく。わたしたちは春のたびにまた新しく始まっていく。はるのよろこびがあるから、ふゆをのりこえられるって、たまに本気で思うよ。