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3F/長期滞在者&more

自分が癒える・誰かを癒す

長期滞在者

20年来お世話になっているKさんの推薦で、ニューヨークからある作家さんが私のところに来てくださることになった。私はそうは思わないが、その作家さんは、あまり日本では知られていないらしく、東京での発表の場を探していらっしゃるというということだった。

ミーティングは大変楽しいもので、これまでの写真の話、いまの東京のアート事情から、世界のマーケットの状況や、今後の話など、あっという間の2時間でした。

その前日、実は、久しぶりに酷いぎっくり腰をやってしまいました。昼間に屈みながらバスタブの清掃をして、起き上がった瞬間に身動きが取れないほどの腰の痛みに、夜中も寝返りを打つことが辛いほどで、海外からのお客様が来なかったら休もうと思っていました。

なんとか車に乗り込み、馬喰町の仕事場についても、よろよろした足取りで、ミーティングが終わったら帰ろうか、と思っていたくらいだったのですが、2時間の楽しい対話の時間を終え、作家さんを表までお見送りした時に、痛みがすっかり消えていることに気がつきました。

体調の思わしくない時でも、持ち込みの作品が面白くてつい熱っぽく話しているうちに、大きな声を出して興奮して気がつけば具合の悪いのがどこかへ飛んでいた、というのはこれまでにも何度も経験してるのですが、あれは一体、どういう現象なのでしょうか。今回もあれから10日経過した今も、腰に軽い違和感が残っているとはいえ、ギクっとするあの痛みは全く感じることがないのです。

夢中になって何かに打ち込んでいると、体やこころの不調は治ってしまうのでしょうか?

仕事を通じて自分の内側が癒えるということは、他の誰かも癒すことができるのではないか、今回の腰痛の回復でふと思ったことです。それでは、何が治癒成分だったのだろうか、と思うのですが、おそらくあの作家さんの、凡人にはおよそたどり着かない卓越した技術に裏つけされた美しい画面に広がる深遠な理想郷のような写真世界と、それを自身の眼と手によって生み出してきた作家さんそのものの人間的魅力の両方が、私の痛みを和らげてくれたのは間違い無いと思う。

その両方を同時に味わえるのは、リアルの場でしか経験できないこと。まだ出会えていない誰かを癒す場所として、ギャラリーはもう少し誰かの役に立つのかもしれないと最近思っています。

篠原 俊之

篠原 俊之

1972年東京生まれ 大阪芸術大学写真学科卒業 在学中から写真展を中心とした創作活動を行う。1996年〜2004年まで東京写真文化館の設立に参画しそのままディレクターとなる。2005年より、ルーニィ247フォトグラフィー設立 2011年 クロスロードギャラリー設立。国内外の著名作家から、新進の作家まで幅広く写真展をコーディネートする。

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