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3F/長期滞在者&more

Cair na real

長期滞在者

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東京に戻ってきて、すぐに熊本で地震が起きた。それから、気持ちが落ち着かない。自分の心の中にある断層がずれているような、足元が落ち着かない感じ。ぐらぐら、ぐらぐら。落ち着きどころが見つからない。実際、ずっとめまいがするような、船酔いの感覚が続いている。外の世界はこんなに綺麗なのに、こころの中は不安でいっぱいだ。

熊本の地震が起きる、ほんのすこし前に東京が震源の地震が起きたとき、心臓が口から飛び出してくるほど緊張した。一瞬で3.11のときの不安な気持ちが蘇ってきたし、「ゆれくる」の警報音を聞いたとき、動悸が止まらなくなった。
5年前のあの日、うちではコップが棚から落ちて割れたり、気に入っていたガラス鍋とガラスの蒸し鍋が割れたくらいの被害ですんだ。だけど、アパートメントの下の階にはフランス料理屋があって、そこのワイングラスや、ワインボトルが何本も何本も落ちて、大きな音を立てながら割れた。わたしは屋外に逃げながら、ガシャンガシャンっていう空気を切り裂く破裂音を何度も聞いた。すごくすごく怖かった。大げさかもしれないけれど、アポカリプスとはこういうものかって思った。フランス料理屋の店主さんや、顔すら知らなかった隣人たちが家から出てきて、大丈夫ですか、うちはこんな感じです、って、声を掛け合った。地面があんなに揺れているのをみたのは、あれが初めてだった。多分、あの場にいた人々は、同じことを考えていたと思う。まさか、あの地震があれほど大きな破壊力を持っていたなんて、想像していなかった。

先日の、ほんの震度3くらいの地震。もう慣れっこだよという人も多いと思うし、大したことないでしょうと言われるかもしれない。だけれど、冷静に考えれば、今立っている大地自体が揺れているわけで。地面が揺れれば、その上に立つものはすべて揺れる。土台自体が揺れたら、どんなにしっかりとつくられたものだとしても、じかに大きな影響を受ける。震度7の地震が起きれば、それだけの大きな衝撃が人にも、その上に立つありとあらゆる物事に影響を与える。不安定になる。地盤もそうだし、社会もそうだし、もちろん、人のこころもそうだ。土台が不安定な状態がいま、日本で起きている。

正直にいうと、先日東京であった小さな地震がくるまで、わたしはどこかで5年前の地震のことをしっかりと受け止めることができていなかったのだと思う。東京が揺れて、熊本がもっと大きく揺れて、ようやく気付いた。”Cair na real”という表現がポルトガル語にはあるんだけれど、その言葉通り、これまでの生き方ではだめなんじゃないかって、これまでの考え方ではだめなんじゃないかって、はっとした自分がいる。東京に引っ越してきたのも、新しい生活をつくるため。その中で、いま自分が直面してるのは、土台そのものが崩れてしまうような状況下で、一体どうやって生きていくのかという問いかけ。

保証された明日なんてない。数秒先、数分先、数時間先のことも、わからない。怖いことをいうようだけれど、いつ地面が揺れるのかわたしたちは予測ができないし、抗えない。怖いし、不安だけれど、でも日本に生きている以上地震を避けることはできない。どこへ行こうと、どこに住もうと、地震はついてまわる。地震だけじゃない。いつ病気になるかわからない、事故にあうかわからない。いつ死んでしまうかわからないなかで、わたしはどうやって生きる?なにをやって生きる?どう考えて生きる?

あれが心配これが心配と思い悩んだり、我慢したり、見ないふりしたりしていたら、きっと後悔するから、進むなら茨の道でもこころが赴くように。自分の価値観を今一度、しっかり問い直すときがきているんだって、心底思う。わたしにとって大切なこと、守りたいもの、譲れないもの、手放せるもの、取るに足らないもの。だらだら流されるように生きるのではなくて、しっかり生き方の取捨選択をして、身軽でいられるようにしたい。わたしの人生が、わたし自身のものであるように、あなたの人生は、あなた自身のものだよ。だから、自分が望む生き方を選んで。

Maysa Tomikawa

Maysa Tomikawa

1986年ブラジル サンパウロ出身、東京在住。ブラジルと日本を行き来しながら生きる根無し草です。定住をこころから望む反面、実際には点々と拠点をかえています。一カ所に留まっていられないのかもしれません。

水を大量に飲んでしまう病気を患ってから、日々のwell-beingについて、考え続けています。

Reviewed by
owlman

地震によって"これまでの生き方ではだめなんじゃないかって、これまでの考え方ではだめなんじゃないかって、はっとした自分がいる"。

地面と精神の足元が揺れることについて。

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