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3F/長期滞在者&more

Family matters

長期滞在者

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「家族はどうしてるの?」

恩師に何気なく聞かれ、思わず言葉に詰まった。元気そうだよって答えたけれど、心中なんと答えるべきなのかわからない。そもそも、家族とは2万キロもの距離を隔てているし、彼らと連絡をとることはほとんどない。元気そうにしているのは、Facebookごしに見ているけれど、ネット上で見ることのできるのは、多分人生の良い面だけで、彼らがどんな生活をしているのか、実際のところわたしには何もわからない。

この数年は、前ほど家族の存在を意識しなくなった。距離があるからというのもそうだし、物理的に家族と会っていないこともあるんだけれど、時差があることもきっと大きな要因だと思う。同じ時間軸で生きていないというか。

それに、 今のわたしにとって、自分の帰るべき家は、家族たちが住んでいるところではなく、パートナーのいるところだと感じる。親から離れて生活するようになって、10年以上の月日が過ぎて、私は名実ともに親離れした、と思う。だけど、どこかで引っかかっていることもあって、微妙な気持ちのままでいるところもある。普段は、清算できていない「臭い何かに」蓋をしたまま生きている。家族のことを聞かれたとき、ひやりとしながら、その存在を思い出して、恐る恐る蓋を少し開けてみる。

当たり前だけれど、普段その存在を意識していないから、彼らについて言えることはほとんどない。自分が知っている数少ないことを話してみたけれど、心臓がばくばくして、まるで言い訳をしているような気持ちだった。なんで、こんな気持ちになるんだろうって、答えながら自分の頭の中では無数のクエスチョンマークが浮かんでた。そこで改めて、家族というものが、わたしにとって根源的な問題の種なのだと思ったわけで。

良いことも、悪いことも、家族という単位のなかにはあって、わたしは家族がとても、それはとても好きな面もあれば、考えたくないと目をそらしたくなるような面もある。本当は、考えなきゃいけないんだけれど、考えたくないことも、詮索されたくないことも、ジャッジされたくないこともある。自分のいまの生活や、自分が選択してきたことの中には、間違いも多かったけれど、絶対に自分のほうが正しいと思うことがあって、それに何か言われたらわたしはひどく傷つくと思うし、より一層家族から離れていくと思う。波風たてるくらいなら、もう目の前に現れないので、そっとしといてって。本当は、正面から向き合うべきなんだろうし、わたしが逃げ続けていたらなにも変わらないんだけれど、まだわたしには時間が必要だ。自分が絶対に正しいと思っていても、自分がその思考に慣れなくてはいけない。

前にもどこかで書いたと思うんだけれど、わたしにとって家族というのは小さな村のようなものだ。お互いのバランスを保つのがととても大事で、村八分にならないよう常に気をつけているような感じ。村の住人の間の団結力は強いんだけれど、なにかトラブルが起きたら全部がダメになるくらいの小さな狭いコミュニティで。わたしが恐れているのは村の団結をぶち壊してしまうんじゃないかということ。そもそも、もう村から離れて別の村で生活しているはずなのに、心の一部を置いてきちゃっているから気が気じゃない。

パートナーはよく、自分はいろいろ受け入れるのに30年かかったから、焦らなくていいと言ってくれる。確かに、わたしもそう思う。葛藤もなく、すんなり物事が運ぶなんてことはないのだから。親心も複雑なものだし、もしかしたら、生きている間理解されないことだってあるかもしれないし、わたし自身きちんと整理できないまま死ぬかもしれない。その一方で、これってそんなに大事なことなの?って疑問に思うこともある。もっと爽やかで軽く捉えてもいいんじゃないのって。でも、むりむりむり。すぐに何かがその疑問を打ち消しにかかる。

家族のことを考えるとき、わたしは自分がひどく不自由な気持ちになる。家族のことは、海に投げた錨のようにわたしを縛っている。そういう風には見えないかもしれないし、外からみたらどんどん進んでいるじゃんって思われるかもしれないけれど、様々なイエスとノーが往来して、実は身動きがとれていない。多分、次に家族について聞かれたときも、同じような反応をすることになるだろう。だからわたしには時間がもっと必要だ。

Maysa Tomikawa

Maysa Tomikawa

1986年ブラジル サンパウロ出身、東京在住。ブラジルと日本を行き来しながら生きる根無し草です。定住をこころから望む反面、実際には点々と拠点をかえています。一カ所に留まっていられないのかもしれません。

水を大量に飲んでしまう病気を患ってから、日々のwell-beingについて、考え続けています。

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