長期滞在者
秋になったので、林檎ジャムを煮始めて、わたしには答えがない。 ひとの作品を見れば見るほど、何をやりたかったのか分からなくなり、本当の答えを探し出そうとする悪い罠にはまってしまう。楽しくないし、苦しいし、呪いのような気持ちが湧き上がる。ひとの回答をじぶんのもののように語るのでは、作る意味はないし、何やっているだろうというところをグルグル回る。早く答えが欲しい。すぐに答えが欲しい気持ちがやる気を削ぐ。…
長期滞在者
職場に去年から入ってきた若い女子が、聞けば相当ディープにプロ野球の、しかもここは関西なのに北海道本拠のファイターズの大ファンなのだという。タイガースかバファローズなら観戦も楽なのに、因果なことである。 もちろん定期的に北海道にも行くし、普段は京セラドームのバファローズ戦に通い、超望遠レンズをレンタルし、記者席横の特別ブースの料金を支払い、ファミリー向けの小さな一眼レフ(EOS kiss X7)をレ…
長期滞在者
大阪の吹雪大樹さんが主宰しているギャラリーアビィでは、感想カードが備え付けられていて、作家が不在の時や直接話すのが苦手、という人はそこに展覧会を見て思ったことを自由に書いて、会場を後にするというシステムがあります。 先日吹雪さんのツイッターだったと思うけれど、その時に開催していた展覧会の感想カードが、私の予想を遥かに超える膨大な量の紙の塊のようになっている図像を目にして、思わず声を上げてしまいまし…
長期滞在者
蓋のある箱が好きです。 手に乗せられる大きさなら尚良い。 手の上に乗っているのに、その中身がわからない。 まだ読んでいな本を手にしているのに似て、静かな興奮を誘うものです。 自分にとっての理想的な箱、極端な例は「海底二万海里」のノーチラス号でした。ネモ船長が己の知力と財力を結集して、世界中の美しい絵画、剥製、鉱石、この世の全てをあつめた、海底を進む驚異の部屋。 ココアの箱に、可憐な少女が描かれてい…
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先月から再開した朝ヨガのせいか、ここのところ体調も心調も頗る良好だ。 心の調子の方は、ほぼ3年ほど前にうつ病を発症して以来の好調で、なんだか気持ち悪いくらいだ。 ブリュッセルもこの一週間くらいは快晴が続いていて、吹く風は冷たいながらも清々しいので、 そのせいもあるのだろうけど、身も心も環境も清々しいのだから、こういう滅多にないことは、 つまり有難いことだから、気持ち悪いとか言わずにありがたく頂いて…
長期滞在者
とても漠然とだけれど、生きるのはとても難しいと思う。その一方で、気楽に生きていける方法があるのも、ぼんやりと気づいているような、気づいていないような。それを実践できるか、できないかはその人次第だし、捉え方だってそう。多分わたしは相当なネガディブ思考で、上手に感情をマネジメントできないだけ。多分、そう。 いつものことだけれど、結構仕事でのストレスを溜め込みがちで、ここしばらく気がずっと沈んでいる。自…
長期滞在者
ある物語について話したいと思います。題名は書きません。それはマンガであるかもしれないし、小説であるかもしれないし、映画であるかもしれない。一つの作品であるかもしれないし、複数の作品が混ざりこんでいるようにも感じます。ちょうど子供のころ読み聞かされた絵本を夢のなかで見るような、フィクションが展開される向こう側と鑑賞するこちら側が自在に交差するような、楽しいような辛いような経験について書きたいと思い…
長期滞在者
二十年以上前の話、二十四、五歳頃のこと。必要があって初めてカメラを買うことになり、当時働いていた中津カンテGのK氏に相談した。K氏はその当時からカンテのメニューや広報物のデザインワークを担当していた人で、写真やカメラのことも詳しかった。 どういうカメラを買ったらいいかまったくわからないド素人の僕にK氏は一から懇切丁寧に教えてくれたのだが、当時僕は「一眼レフ」という言葉すら、聞いたことはあってもどう…
長期滞在者
ルーニィで個展の相談にお見えになる方の作品を拝見していますと、ここ数年はステートメントを添えて持ってくる人がいます。個人的にはステートメントなんか、あってもなくてもどうでも良くて、口頭でいろいろお話ができればそれで十分なのですが、ポートフォリオレビューが、あちこちで開かれるようになり、その対策として「正しい受け方」みたいなことを教わっている人が多いのだと思います。正しいステートメントの書き方という…
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誰もいない森で木が倒れたら、音はするのだろうか? 聞く人がいる、とは、どういうことなのだろうか? それはつまり、鼓膜、耳小骨、その奥の蝸牛が空気振動を電気信号に変え、脳に送るということ。では、倒れた木自身は、己が倒れた音を聞いていないのだろうか? 思えばここ2年ほど、小説というものを殆ど読んでいませんでした。小説は、全ての主語が人間です。そうでないとしても、例えば擬人化された動物だったり、高度な人…
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9月。言うまでもなくヨーロッパでは年度始まりである。 今年のベルギーの夏はそこそこ暑い日もあり、 季節感のない気候が常であるこの国にしては、 夏らしい夏だったと言っていいと思うのだが、 そこまで暦に沿った季節感を出さなくても…、と思うくらい、 一日から一気に気温も下がり、秋めいた。 そして、そこいらの学校だとか商店だとか役所とかもお仕事再開。 それにしても。 学校が夏休みだったのはわかるが、役所や…
長期滞在者
「せかいいちおおきなイモをねがったらどうです?ふゆじゅうたっぷりたべられるし、このたねをうめて、みずをやって、まっているだけで、ほかにはなにもしなくていいんですから」 『ジェイミー・オルークとおばけいも』より 「お昼ごはんなあに?」「今日のお昼はじゃがいもよ。」じゃがいも?それが献立の名前ではないというごく当たり前のことに気付いたのはだいぶ大きくなってからのことだった。粉吹き芋でもポテトサラダでも…