長期滞在者
先月初め、娘の誕生日を彼女より少し年上の息子と 彼らの母親と一緒に祝うためにヘルシンキに一週間ほど滞在した。 到着して数日間はまだ5月初めとしては異例の寒さが続いていて、 天気は良いのだけどダッフルコートが手放せなかった。 彼らの住んでいるところから徒歩20分くらいのところに とても設備の整った室内プールがあるので、 ヘルシンキに行くときは必ず何度か泳ぎに行くことにしている。 そこは10レーンもあ…
長期滞在者
「うーん、様子を見るしかないですねえ。どうしても体調が優れないようであれば、また相談してください。」 定期検診で、久々に会った主治医は淡々とそう言った。診察票を挟んだピンクのファイルを手にとって、扉に手をかけたら、後ろからお大事に、と声がした。(お大事に、か…) 診察室を出るときの扉が嫌に重たかった。顔を上げるとパートナーが心配そうな顔で私をみていて、その瞬間、緊張が解けたのか、いろんな感情が湧き…
長期滞在者
自分がゲイであることは、なるべく早めに言うようにしている。単に「彼女はいる?」「好きなタイプは?」といった質問に嘘をつき続けるのが負担なのと、時間を重ねるほど言い出しにくくなってしまうから、そうしている。だからその人と今後も関係が続いていきそうか、偏見が少なそうかを確かめてから言うし、言わないこともある。 言った時には、その人にとって「生まれてはじめて、現実世界で出会った同性愛者」になることもある…
長期滞在者
泣いている時に、「今から行く」と言ってくれる人がいることにどれだけ救われているか。 私が泣いている理由は、世の中の差別に対してだった。 明らかにそれは大切な仲間の人権を侵している。 その疑問を表した時に、 「差別ではないでしょう」、「問題があるとは思えない」と、投げかけられた言葉の前に立ち尽くした。 「この表現は人を傷つけているのではないでしょうか?」と問いかけた言葉が、 あっという間に消えていく…
長期滞在者
自分だけが感じている感覚なのか、ほかの人も一般的に感じるものなのか、いまだによくわからないことが、いくつかある。そのときを過ぎるとすぐに忘れてしまうし、ささいなことだから、あらためてほかの人と話したりする機会がない。 —— たとえば、コーヒーの効力が切れた匂い。ドリップコーヒーに入れるお湯の量をちょうどよく調整するのは難しい。多すぎると水っぽくなって台無しになってしまうし、…
長期滞在者
最近決まりきった道で通勤するのがつまらないと思って、帰り道はできるだけ毎回違う道を自転車で走ろうと節操なくルートを変えている。それで遠回りになったとしても、いつも通る見知った場所と見知った場所が思わぬ繋がり方をしているのを発見したり、頭の中の尼崎地図が日々書き替わっていくのが面白い。 先日、阪神尼崎駅前から北上する幹線道路の、その一本西の裏道を走って帰っていたのだが、その幹線道路じたいが北西に傾い…
長期滞在者
ゴールデンウィーク中1日だけ時間が取れそうだったので、京都グラフィーへ行ってきました。 メイン会場だけでも15箇所ありますが、朝から夕方までで一気に9箇所の展示をしっかり見ることができました。 見る前は、先端的で難解な手法が次々と繰り出されてくるのかと思っていたら、全然そんなことはなく、意外とオーソドックスに写真を運用していました。 扱っているテーマも、社会的な題材、メッセージが明確なものなどが中…
Mais ou Menos
————— ぴちゃん お疲れ様です。ようやく週末だね。この一週間は割と元気に過ごすことができたので嬉しいです。暖かくなってきたからなのかな。 先月、これまでで一番体調が悪いひと月をすごして、改めてこうやって“元気”でいられることに喜びを感じます。 正直にい言うと、先月は、自分はこんな”miserable”な状態で死ぬのかなって、死ぬことば…
それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。
彼女は山中湖行きの高速バスで隣の席に座っていた。 大きなバックパックを携えたアジア系の可愛らしい女の子は目的地に着く約2時間ほどのあいだイヤホンで音楽を聴いていたから、私たちは黙って隣あっていた。だけど最後のほうで彼女から降りるべきバス停について尋ねられたことをきっかけにお互いの名前を知った。彼女はマカオから初めて日本を訪れていると言う。 GWで賑わうなか、私たちはどちらもひとり旅だった。バスを降…
日本のヤバい女の子
【5月のヤバい女の子/嫉妬とヤバい女の子】 ● 山の女神 ――――― 《オコゼと山の神》 昔々、山にひとりの神が住んでいた。女性の神だ。普段はほとんど姿を現さなかったが、秋から冬は山を、春から夏は田んぼを司っていた。辺り一帯の村は彼女の加護を受け、いつも実りに恵まれていた。 ある時、山の神は珍しく里に降り、農作物の出来を視察して回ることにした。どの家でも田植えを終え、さわやかな風にまだ背の低い苗が…
長期滞在者
春は天候が荒れる。体調も崩れやすくなる。職場の面子が変わったり、環境が変わったり、出会いと別れの季節だ。波のようにいろんなことが揺れて、揺さぶられて、安定するのがなかなか難しい。わたしにとってもそれは同じことで、様々な変化に適応するために日々必死です。 3月末から4月末にかけて、これまでにはなかったような体調不良が続いていたのも大変だった。身動きが取れないような頭痛が連日続き、急遽CTスキャンを受…
長期滞在者
稲葉俊郎『いのちを呼びさますもの』(アノニマ・スタジオ) 本棚の前を立ち去ろうとした時、視界の隅で一冊の本が光った気がして振り返った。 血液のように真っ赤な表紙に、金色の箔押しでタイトルが刻まれた本が、棚の左上にあった。その本は、並べられている他の本と比べてどこか雰囲気が違っていて、どうして気づかなかったんだろうと思いながら手に取る。ぱらぱらとめくって、その時は稲葉俊郎さんというお医者さんが命や体…