長期滞在者
しばらくお休みを頂いて、みつきぶりに私は「わたし」のままで『アパートメント』に戻ってくることができました。おひさしぶりですとはじめまして、古林希望です。 ✦ 脳腫瘍の手術を終えてはや(私には十二分に長かったけど)ふたつきが過ぎました。 私は今手術を行ったT病院脳神経外科から転院してN病院リハビリテーション回復科というところにいます。 現実はなかなかドラマのようには行きませんね、権威の手によって手術…
虫の譜
夏、妻の実家の岡山に帰省すると、一日は鳥取の丈母の実家にまで足をのばす。途中、岡山県北の鏡野にある郷土料理の店に立ち寄るのが恒例になっている。風の通る座敷に座って、山里の風景を眺めながら昼食をとる。囲炉裏で焼かれた串刺しの山女、山菜の炊き合わせにカリリとした天ぷら、紅白のなます、そして発酵が進んで強烈に舌を縮ませる漬け物とごはん。三年間、変わることがない。 昨夏、ちょっとした事件があった。食事を終…
長期滞在者
先月の長い「話の枕」にうんざりした人も多いでしょうから、今月は簡潔にいきたいと思います。 先月あれだけの時間をかけて書いたことをおさらいするならば、要するに、「目の前のことがらを認識(=言語化)するために、人間の脳は膨大な量の視覚情報をスキャンするように取り込んではその大部分を捨てているらしい」ということです。(67字ですんじゃった!) 僕は人物の写真を撮る仕事をしているので、同じ被写体に何度もシ…
長期滞在者
何かを得るために努力しなければならないと、生まれた頃から世間は押し付けてきた。学校に入るための努力、大学に入るための努力、社会人になるための努力、写真家になるための努力、何か名前やステータスを得るために、この世界ではどうも努力しなければならないらしい。「努力」という漢字の中にさえ、僕を産んでくれた女の力が見える。 母ちゃん、ごめんね。30年間生きていて、僕が本当に幸せだと思ったことは僕の努力なしに…
長期滞在者
“white lies”-are not a problem 課題に渡された英字新聞には、そう書いてありました。 「白い嘘」は問題にはならない、と。 重大な出来事を前に、どの嘘が白くてどの嘘が黒いのか。 ぼくはわからなくて、混乱する。 「白い嘘」を日本語では 「嘘も方便」と言うらしいけれど。 あの人はどうして、「嘘」をついたのだろう。 それが白でも、もしかして黒でも。 「人…
the power sink
こんばんは。自分はなんでか無意味な絵が大好きで、今回もここに載せる。 今回少し気持ち悪い絵が多いので、申し訳ありません。ではよろしくお願いします! 僕はシートにつつまれている。地中に埋まっている。栄養が少し出ている。 花々 棒を持った恐ろしいおじさんがいるんだ。帽子をかぶっている 黒い、綿状の突起物をくわえている。触られると、とても痛い 横風が吹いているんだ 限界だ。本当にどうしようもないくらい限…
長期滞在者
子どものころ、夏になると千葉県の養老渓谷に川遊びに連れて行ってもらっていました。川で遊んだという細かな記憶は殆ど残っていないのですが、内房線の五井という駅で乗り換える小湊鉄道のディーゼルカーに乗った記憶は良く覚えています。昭和50年頃だと思いますが、甲高いエンジンの音と、冷房のない暑い車内が妙に記憶に残っていて、子どもながらにも古臭い電車だなぁと思ったものでした。 その小湊線が今も廃線にならずに、…
イルボンと小鳩ケンタの空席商会
◇出てくる人(順不同・敬称略) イルボン(詩人):以下、車掌 小鳩ケンタ(詩人):以下、鳩 HELLOAYACHAN/ハローアヤチャン(絵描き・プラスチックアクセサリー作家):以下、ハロー 曽田朋子(造形作家):以下、曽田 土師洋之(会社員):以下、土師(はじ) ◇◆◇◆◇ 【2014年4月の相席】 4月20日、gallery yolchaにて収録。 HELLOAYACHAN×曽田朋子「NEWSH…
風景のある図鑑
「 麻 : cannabis 」 麻は様々な表情を持つ植物です。 麻の繊維は、夏服の代表的な布として広く使われています。 種子は、唐辛子にも入れられているポピュラーな食品です。 皮を剥ぎ取った麻の茎は燃えやすく、オガラと呼ばれ盂蘭盆の迎え火やお切り火に使用されます。 まだ受粉していない雌花をシンセミアと言い、その先端から得られる樹脂にテトラヒドロカンナビノールという化学物質が含まれています。 これ…
長期滞在者
白くってふわふわしていて地面に落ちているもの、なーんだ。 この時期になると家の外にも部屋の中にも、このふわふわしたものが現れる。外にあるのはポプラの種子で、綿毛を身にまとっているため風に舞いふわふわと漂い、地面を白く覆う。初めて見たのは19の頃、大学のキャンパス。私の目の前、気まぐれに飛んできたこの大きな綿毛はいったい何なのか、と辿ったらそこには大きなポプラの木があって、季節外れの雪景色に…