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Mais ou Menos #13 —裏でも表でもないわたしたちの往復書簡ー

Mais ou Menos

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まちゃんへ

ゲーム機を片づけ終えて、いよいよもうすぐ出発します。知らない場所や知らない人と会うのはとても緊張します。
でも、またこれから新しいことが起こると思うとワクワクする気持ちもあります。
ただ、まちゃんと離れるのだけが、寂しいんですが、一生会えないというわけじゃないので、あまり考えないようにします。
距離があってもインターネットがあるので、何とかなるやろ!

これから新しい世界を見てきます。
向こうはとても寒いみたいなので、冷えないように足元をしっかりあっためないとなと思っています。まちゃんも、足や背中が冷えないように充分あったかくしてくださいね。

今後のことはどんどん報告していきます。
写真もいっぱい撮りたい。
楽しんで何でもやったらいいよね。
まちゃんの健康と安全を祈りつつ、行ってきます!!

2015.11.7

P

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Pちゃん

こんにちは。元気にしていますか?なんだか、すごく変な感じですね。Pちゃんが四国へ旅立って、まだ2日しか過ぎていないのに、すごく前のことに感じます。紙に書く最初の一文字が、緊張ですぐにでてこなかった。

新しい環境では、今までとは違う気持ちでいるみたいですね。カミングアウト、本当にお疲れさまです。どんな気持ちだったとか、まわりの人の反応とか、また今度聞かせてね。私たちの人生の、また新しい局面を今迎えているのだな、と思います。

そんな私も、職場の方に2人のことカミングアウトできて、すごく良かったと思っています。数は少なくとも、自分たちのことを否定せず、「いいんちゃう?」と言ってもらえることって、それだけで本当に素敵なことだと思います。私はまだまだ自分のことを、ありのままに話せるようになるのに時間がかかりそうだけれど、少しずつ語れるようになっていきたいです。

私もありのままでいられる日がくるのだろうか。いつも人の前だと”つくってしまう”から、本心が言えないことがすごく多くて、Pちゃんのように裏表なくいられるのって尊敬する。これも自分を守るためだと思うのだけれど、私が守っているものって一体なんなんだろう。ふと、そんなことを考えました。

深い山村で、これから毎日寒いと思うけれど、私が編んだセーターが、P
ちゃんの心と体をあたため、守ってくれますように。いつも、Pの健康を祈っています。どうか、安全にすごしてね。

2015.11.09

Maysa

Maysa Tomikawa

Maysa Tomikawa

1986年ブラジル サンパウロ出身、東京在住。ブラジルと日本を行き来しながら生きる根無し草です。定住をこころから望む反面、実際には点々と拠点をかえています。一カ所に留まっていられないのかもしれません。

水を大量に飲んでしまう病気を患ってから、日々のwell-beingについて、考え続けています。

PQ

PQ

ゲームと映画が好きです。
国籍も性別もない。

Reviewed by
西尾 佳織

Pちゃんとまちゃんが、離れてしまった。
おかしいんだけど、そんなことが起こると思っていなかった。そんな思い込みって本当は、本当に、おかしいけれど。
どこかで私は未だに、Pちゃんとまちゃんの生活を物語のように捉えていたのかもしれない。

いつの間にか、私は二人に思い入れている。
知らない二人だから、彼女たちが記した具体的な言葉からしか、二人の現実を想像することが出来ない。
(そこに〈書き言葉〉の重みを感じた。私は言葉を後から訂正し、説明を加えることに、慣れ過ぎているかもしれない)

例えば、「カミングアウト」という言葉に立ち止まる。カミングアウトしたPちゃんに、まちゃんがかける「本当にお疲れ様です」という言葉の不思議な遠さと硬さ。
おそらくこのカミングアウトは、Pちゃんとまちゃんの二人のこと、二人で共有されている問題なのだと文面から思うのだけど、カミングアウトをするのはそれぞれで、二人はそれぞれ一人で立っている二人みたいだ。

それから、「ありのまま」という言葉。
ありのままの自分でいたがるブームみたいなものを少し煩く感じていたのだけれど、そういう風でいられるのは、私が十分にありのままで生きられているからかもしれなかった。「裏でも表でもないわたしたちの往復書簡」というタイトルに、今になって感ずるものがある。

そうして最後の「どうか、安全に」という呼びかけに、ひりりとした。
「元気でね」とか「気を付けて」とか、そんな定型の挨拶と同種のものなのかもしれない。けれど私には「安全」という言葉が、定型の持つ暢気さ朗らかさから少し浮いて、立体に見えた。彼女たちの交わし合う言葉の足元に、「安全でない感覚」が共有されてあるように思ったのだ。

二人がこれからの季節をあたたかく安全に過ごせますように。
次の手紙を待つ気持ちが生まれている。

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