入居者名・記事名・タグで
検索できます。

Mais ou Menos #66 —裏でも表でもないわたしたちの往復書簡—

Mais ou Menos


まちゃんへ

今日は病院の日やね。まちゃんがコロナにかからへんかいつも心配しています。
その分自分も持って帰らんようにしんとと、気をつけてる。

少し前にまちゃんの目眩がひどくなって少し寝たきりみたいな状態になったときは、本当に心配した。
今少し落ち着いているみたいやから安心してるけど、春やからホルモンバランスが乱れやすいんやろうか?

自分のほうは、薬効いてて、前より随分動けるようになってると思う。クラフトができるようになってきた。映画も少しずつ見てる。

でも、回復しても脳にダメージを与える出来事が起こったら、すぐに精神は揺らいでしまうんやな。
母からの電話で父がまた酒を飲み始めたことを聞いて、言いようもない気持ちの揺らぎがあった。
苦しかった。
過去のトラウマって怖いなと思った。
今後の親のことも心配やけど、申し訳ないが今そこまで自分に余裕がない。だから関わりたくない。

何だか暗い話でごめん。
二人は二人の生活を、日々暮らせていることに感謝してやっていきたいです。
いつもありがとう。

2020.4.7

P


Pちゃん

おはよう!今日はいい天気やね。昨日は病院すごく疲れた…

コロナの影響なのか、病院は普段よりも患者さんの数がかなり少なかった。電車の中も人が少なくて、安心やった。皆、コロナ対策がんばってるんや思う。

日々、一進一退やな、私たち。元気かと思ったら、だーっと体調悪くなったり。ホルモンバランスが崩れやすい季節の変わり目は、メンタルにも体にも負担になるからなぁ。

Pパパがお酒を飲んでしまうのも、いつも春先やんな。去年もたしか今ぐらいの時期だったと思う。Pの中で起こる揺らぎ、見ていて私もすごくつらかった。こういうことがある度に、子ども時代の恐怖を何度も何度も感じてダメージを受けてしまうんやもんな。小児トラウマって脳に大きな傷を残すんやって、こういうときに痛感します。

でもね、今回のことで、自分の変化を感じることもあった。いつもだったら、Pの家族、とくにパパとママのことを考えて、彼らの気持によりそおうとしてた。だけど、今はもう少し距離をとることができたの。自分と他人との境界が、今までよりもずっとはっきりしているなって。この一年ぐらい、自分のためにメンタルケア(?)とかしてた成果なのかも。

Pも、バーっと感情を外に出して、たくさん泣いて、思っていることを話してくれたの、よかったなと思う。あと、Pママが、Pにごめんねって謝ってくれたの、私はすごく嬉しかった。ようやくママがPのつらさを受けとめようとしてくれたんやって。つらいけれど、自分たちを大事に生きよう。自分たちもまわりも少しずつ変化するものなんやし。

Maysa

Maysa Tomikawa

Maysa Tomikawa

1986年ブラジル サンパウロ出身、東京在住。ブラジルと日本を行き来しながら生きる根無し草です。定住をこころから望む反面、実際には点々と拠点をかえています。一カ所に留まっていられないのかもしれません。

水を大量に飲んでしまう病気を患ってから、日々のwell-beingについて、考え続けています。

PQ

PQ

ゲームと映画が好きです。
国籍も性別もない。

Reviewed by
小沼 理

今回の二人の手紙を読みながら、宇多田ヒカルの「Play A Love Song」という曲を思い出しました。「友達の心配や 生い立ちのトラウマは まだ続く僕たちの歴史の ほんの注釈」という歌詞のところ。

気持ちの揺らぎを話すPQさんに、マイザさんは「日々、一進一退やな、私たち」と返事をする。その言葉に、しなやかな強さを感じました。体の不調や病気、悩み、考えるだけでつらくなってくること……なかなか逃れられないそうした困難を、やってきては過ぎていく季節のように受け入れようとしている気がしたからかもしれません。そして、その困難の理由を自分や相手の中に見出そうとしないことも、とても大切だなと感じます。

トップへ戻る トップへ戻る トップへ戻る