当番ノート 第35期
人間の本質について 「人は矛盾を愛する存在である」が本質だと仰っていましたね。 「誰かを恨み、憎むことで幸せになれる人が存在し(身近にも)、 平和のために憎しみが、戦争のために愛が語られるのがこの世界なのだと痛感しました」 この熊谷さんの文章、書くだけで哀しみに押しつぶされてしまいそうになります。 この人たちは、本当にそうなのでしょうか。心の底から本当にそれで幸福なのでし…
当番ノート 第35期
Aの本名を私は知らなかった。年齢や職業も聞いたことがなかった。私とAは毎週日曜日の十一時に彼が住むマンションの部屋だけで会った。その時間に部屋を訪ねると玄関の鍵が開け放されていた。毎週決まった時間と場所で会うのでそれ以外の時に連絡を取り合う必要はない関係だった。私たちは会うたびに一度ずつセックスをした。Aの身体は酷く痩せており二十四本ある肋骨のすべてが浮かび上がっていた。細く長い腕や脚はまるで執…
日本のヤバい女の子
【11月のヤバい女の子/年齢とヤバい女の子】 ●辰子姫 ――――― 《辰子姫伝説》 秋田県の山あいの村に一人の女の子が暮していた。 素朴でやさしい、辰子という名前の子だ。幼かった辰子は数年のうちに、はっとするような美しい少女に育った。 周囲から「年頃」と言われ、周りの同年代の少女たちと同じく大人のように扱われ始めても、しばらくの間、辰子は自分の顔かたちに無頓着だった。子供のように野山を駆けまわって…
当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 13 前日、興奮の新地獄を発見したランパーン県からチェンマイへ移動した。ご存知の通り、チェンマイはタイきっての観光都市であり、世界中から多くの人が集まっている。これまで自分以外にひとりも外国人を見かけないような生活が続いていたため、チェンマイに着くとどこかホッとした。 そしてこの日は、チェンマイの隣県、…
当番ノート 第35期
こんばんは、おはよう。夜19時に自動投稿される連載の仕組みに合わせて、これまで「こんばんは」としていたが、実際は夜眠くて断念して朝に書いていることも多い。朝の曳舟駅。行くのは今のところ毎回、今年の夏にできた東武の駅ビル(というか小さな通路)の中に入っているタリーズで、駅直結の大病院に隣接したこの新しい一帯は、ほのぼのと薄暗い下町すみだの中では際立って照明がまぶしいし、いかにも白々しい。できたとき、…
長期滞在者
ここ最近、iPhoneで電子書籍を読んでいる。今読んでいるのは、Joshua Fields Millburnの『Everything That Remains』。著者のJoshuaがミニマリストになるまでと、なってからのことを書き綴ったエッセイなのだけれど、この本を通勤電車の中で少しずつ読み進めるのが、ここ最近の楽しみになっている。JoshuaはRyanという友人とふたりで”the m…
当番ノート 第35期
今回はひと息つくつもりで、コーヒーでも啜りながら 肩の力を抜いて書いてみようと思います。 これから先、書こうと思っている幾つかのことは 自分にとって向き合うのがとても難しい問題であり、 内容的にもたぶん重たくなってくるからです。 なのでその前に今回は、少しゆったりとした気持ちで書かせてもらえませんか、という提案です。 コーヒーを啜っていると、大学時代にお世話になったある先生のことを思…
当番ノート 第35期
今年の四月に入社したアサクラは嫌なやつだった。口数が少なく表情にも乏しく可愛げがなかった。挨拶が出来ず飲み会には出席せず先輩に対する礼儀というものがなっちゃあいなかった。けれど呆れるほど仕事が出来る男だった。ひとたびパソコンの前に座らせれば新人離れした豊富な知識量と並外れた機転で以て、この道十年の上司たちでも手を焼くような無理難題でさえあっという間にいう間に解決してみせた。その働きぶりは社内の誰…
当番ノート 第35期
「地獄寺」―あの世とこの世の境界にある、人間の本音が隠れている場所― ◆地獄めぐり day 11 前日、ランパーン県で学生に日本語を教えているという友人の家に宿泊させてもらった。そしてこの日、なんとその教え子のお母さんが目的地の地獄寺まで車で送ってくれるというので、お言葉に甘え連れていってもらうことにした。タイで地獄めぐりをしているとこういうことがたまにある。見知らぬ私を100%の善意で送ってく…
長期滞在者
今月の頭に、引越しをした。 空っぽになった部屋をiPhoneのカメラに収め、2年半ほど住んだ家を後にする。新しい家は、自転車でわずか5分ほど。そんな近い場所に、更新でもないタイミングで引っ越したのは、恋人と一緒に暮らすためだった。 同棲は楽しみな半面、不安もあった。相手のこれまで見えなかった部分も目につきやすくなるだろうし、一緒にいる時間が長いぶん、ちょっとした行き違いをやり過ごせなくなる。ものす…
当番ノート 第35期
こんばんは!この週末は、藍の栽培と染めなどを行う歓藍社での活動で、福島県の大いなる田舎、大玉村に行っていました(大いなる田舎は村が掲げるキャッチコピー。渋い)いずれの回でも書ければとは思っていますが、村での暮らしは本当に創意工夫に溢れていて楽しい。農家やクリエイターを中心とした村での一連の活動に参加している人たちの、長年の英知に支えられた、機動力の高さ、人付き合いの絶妙な距離感や思いやり、スパスパ…
当番ノート 第35期
誰もいない作業場の跡地のような場所で、鉄骨に小屋が吊るされていた。 それは時々ゆっくりと回りながら、風に揺れていた。 二十二歳の冬の日、はじめてそれを見つける。 新潟に帰省して、犬の散歩に出かけた夕方のことだった。 いつものように通ってきた道の近くには、水田に囲われた作業場の跡地のような場所があった。 昔から知っていたのに一度も立ち入ったことのないその場所が、その日だけはなぜか気にな…