長期滞在者
Maysa Tomikawaさんの文章を読んで、以前から気になっていた津村記久子の『浮遊霊ブラジル』を読んだ。72歳のおじいさんが楽しみにしていたアイルランド・アラン諸島への旅行を前に急逝し、その未練から浮遊霊となって、いろんな人の体を乗り移りながらアラン諸島を目指す表題作のほか、全部で7つの作品が収録された短編集だ。 Maysaさんはこの中の4つめ、「地獄」という短編を取り上げている。突然のバス…
当番ノート 第32期
この記事が掲載される頃には、私はもうブルターニュの田舎へ行っている予定なのだけど、この記事を書いている今、私は日本にいる。 一年ぶりの日本。実家のある街まで帰ってきたのは、実に二年ぶりのこと。二年も家へ帰らなかったことは初めてではないか。最近ではYouTubeのおかげで、日本のテレビ番組が少し遅れて、しかし次の日には観れるということを覚えて、たまに観たりして、『ふむふむ、日本は今こういう感じなのだ…
当番ノート 第32期
「いつまで音楽続けるの?」「どうなりたいの?」 要は将来のビジョンとか目標とかを問いたいのだろう。それでも、どう答える事を求めているのか迷う事が多い。ちょっと長く深くなりすぎない程度に、答えになるかどうか分からないけど気持ちを紐解いてみる。 ある時、知り合いがライブを見に来てくれた時に私に言った。「ちょっとひどい言い方かもしれないけど、自分はミズハちゃんの歌を聞きに行ってるんじゃない。音楽に対する…
当番ノート 第32期
「樋口さんは最初とっつきにくい人だと思いました。」 会社の女性スタッフに最近言われた言葉です。 僕は多くの方にとってとっつきやすいタイプ(自称)だと思います。 そんな僕がなぜそんな事を言われなきゃならないのか。 それは僕のせいなのです。 わざと話しかけたり目を合わせないようにしているのです。 なぜそんな事をするのか・・・ それは、僕がセクハラと思われるのを恐れている臆病者だからなのです。 スズメの…
長期滞在者
今月の藝術草子は、東京とパリ、それぞれの場所で出会った、人と人とをつなぐ場所について. 髪は女の命、と昔から言うけれど、幼いころから黒髪ストレートロングヘアで過ごしてきた私にとって、髪の毛は自分のアイデンティティーそのものだ. フランス育ちの私は、小さいころから輝くようなブロンド、甘やかな栗色、知的なブリュネットに囲まれていた.そんな中、私の漆黒の髪は彼らに珍しく映ったようだ. 「つやつやで綺麗ね…
長期滞在者
エキセントリックが普遍を射る瞬間、ということを考える。 中心を射ることが出来るのは外周に位置する者だけである。 変人と揶揄されるカナダのピアニストが弾いた「奇矯な」バッハが、古色蒼然に思われていたその楽譜に新たな命を吹き込み、音楽というものの根底を揺さぶるような力を掘り起こした。その力はバッハの譜面の中にすでに描かれていたのだけれど、「中心」にいる人達にはその力がもう見えてなかったのだった。 もち…
当番ノート 第32期
「きたー!」「着いたね!」 想像以上に登りごたえのある道を登り終えて、 私たちは衣張山の山頂にたどり着いた。 山頂からは、海と山に囲まれた鎌倉の街が見渡せて、 歴史の授業で鎌倉は攻められにくく守りやすい地形だと習ったことを思い出す。 山には深い緑色の木々がこんもりと広がっている。 海と空は淡い群青色で、どちらも似た色をしているから、境界線が曖昧だ。 空には白い雲がふんわりとたちこめていて、雲の切れ…
当番ノート 第32期
大学2年生の夏休み。 神戸から東京へ走って帰ろうとした。 そこに比喩とかはなくて、走って帰ろうとした。 荷物はハードカバーの本が入らないくらいの小さなリュック一つ。 中身は、スマホの充電器と 何万円かチャージしたSuica、財布 それと、Tシャツとランニング用パンツ ほとんどノープランで、 なんとかなるかなあと思っていた。 結論から言うと、そんな甘いことはなかった。 神戸から三重県伊賀市で諦めた。…
長期滞在者
学生の頃からお世話になっていた「天下一品」「こってり」ラーメンはふた月に1度は食べたくなります。先日も出先から江古田のお店に立ち寄りました。関西発の青春の味ですが、その関西出身者たちが関東でも本物の味だと認めるいくつかのお店のひとつです。 通称「天一のこってり」この食べ物の特徴はスープで、麺は若干水っぽくて柔らかく、上に盛られる具材にも驚くようなものは特にありません。ぼくの場合「チャーハン定食」を…
当番ノート 第32期
あれだけお稽古したはずなのに、やはり白い紙に向かうと、恐い。それは自由に書けばいいと言われているようでもあり、と同時に、見えない罫線が張り巡らされているようにも見えるからだ。せっかく作品のアイディアが浮かんできても、いざ紙に向かって筆を入れてみると、それは見るに耐えない字だったり、思い描いていたものとは全然違ったりする。せっかくのアイディアは、その瞬間に墨の泡となって消えてしまう。 もっと、思い描…
当番ノート 第32期
おひとりさま、にいつから慣れていただろう。 私が物心ついた頃には、ウチには母親しかいなかった。父親がいることは知っていたし、たまに会う事はあったけど一緒には住んでいない。そんな状況を、今思えば子供ながらどう捉えていたのかは、よく覚えていない。母は普段仕事に出ていて、日が暮れてから自転車で帰ってくる。ブレーキの音で母親が帰って来た事に気づく。薄暗い家に響くブレーキ音を、今でも何となく覚えている。兄が…
長期滞在者
Love is・・・に続くあなたの言葉は? と問われて、 私は時間をかけて、自分自身の中に息づく愛を探した。 「あなたにとっての愛とは?」 これまでにも何度だって聞かれてきた。 Love is・・・の問いを投げかけられたのは、今年のTOKYO RAINBOW PRIDEの会場でのこと。 “性的指向や性自認(SOGI=Sexual Orientation,Gender Identity)のいかんに…