当番ノート 第55期
私が3歳から住んでいた小平という場所は、東京だけど緑が豊かで、川が流れていて、空気の匂いは湿っていて、朝は鳥が鳴き、冬になると都心に比べて-3度も気温が下がり、夜になると車通りも人通りもなくなって道路の真ん中を平気で歩いて帰ることができた。星がよく見えて、公園のグラウンドの真ん中で夜空を見ていると、地球上でたった一人になった気分になるほど静かな街だった。 ここには眠った夜があった。私はよくこっそり…
当番ノート 第55期
mopoka です。家族旅行は、楽しいですか? 私は、家族で旅行に行くのが苦手でした。意味不明に毎度、家族を怒らせたり失望させるからです。 振り返って想像するに、私はとてもワガママで好奇心旺盛であり、大人の立てたスケジュールがどんなものかまるで想像もできておりませんで、なぜ「旅行」というものをすることになっているのか意味不明で、親心もまるでわからないので、急に学校みたいに、決められたルールに添う時…
当番ノート 第55期
>>通過儀礼2日目 究極の退屈を探しにいこう。と友人が言った。 2014年1月、銀座のルノアールだった。話の始まりがなんだったかは覚えていないが、確か、オリエント急行に乗ってみたいんだよねと私が言って、でもWikipediaを見たらもう今は廃止になっているようで、ならばシベリア鉄道はどうか、これなら今も現役で走っている、始発から終点までだいたい1週間かかるらしいけど。 1週間?何するの…
長期滞在者
年明け。 どこにも行けないという制約のなかでも、はじめて体験できることが幾つかあった。お雑煮を作ったり、お屠蘇を飲んだり。 我慢の日々だけれど、辛いとこぼすだけにはなりたくない。 昨年の1月の家日記を読み返したら、今と変わらず、側にいる人たちに助けられていたんだと気づく。一層、この場所を大切にしたいと思う。 1月1日(金) 元旦。朝起きて、お雑煮を作る。実家のお雑煮には人参、大根、銀杏、お餅、三つ…
当番ノート 第55期
前回は節約食材の付き合い方を話したいと結んだが、いざ書き始めてみると、私を助けてくれるあいつらとの確執はまだ終わっていないことがわかった。たとえばもやしについて思い浮かべると、私の作るナムルは最高にうまい!よりもあいつら安いけど足が早くてムカつく、が先に来る。ゆとり皆無の荒野の心だった時代、私にとってもやしは白湯と同じ位置づけの貧乏の象徴だった。今はお助けもやしマンくらいに昇格したが、それでもひも…
当番ノート 第55期
眠っていた間の夢の内容が現実のものだったのか、寝起きにぼーっとしながら反芻する時間が好きだ。ふわふわして心地いい。なのに、だんだんと頭が冴えてくると寂しくなってくる。 怖い夢でも、嬉しい夢でも、ありえない設定の夢でも、わからないままにしていたい。世界がわかることばっかりになったらつまらないから、ひっそりと自分だけの謎が欲しいんだ、わからないままのものが好きなんだ。
当番ノート 第55期
実家の冷蔵庫は、いつだって食べ物でいっぱいだった。 朝の納豆、卵、牛乳と豆乳、ソーセージとベーコン、バターにヨーグルト、お味噌、梅干し、キムチと豆腐と夕食後に食べる果物、加えて夜のお酒のお供ようにチーズが数種類、ドレッシングと焼肉のタレも数種類、あとは昨日の夕飯の残りのおかずと、いつのかわからない飲みかけのお茶や使いかけのジャム。 たくさんのものが詰め込まれた実家の冷蔵庫が整理されるのは年末くらい…
当番ノート 第55期
こんにちは、mopoka です。アニメーションを作ったり、絵本の画を描かせていただいたり、時々、大学や小学校にお邪魔して、先の読めない道の糧は、実は今日こしらえてる、的な話をして、感性と夢と、他人との交流により明らかになる個性(武器)を知る為、人と生きましょう… なんてことを強気にお伝えしたりしなかったり。 それもこれも、人との違いを感じるごとに、戸惑っていたし、いまだ戸惑っているから…
当番ノート 第55期
ずっと、なにか決定的な書き出しを探している。 それは永遠に手に入らない青い鳥のようなもので、ときどき、酔っぱらったときとか走っているときとか風呂に浮かんでいるときとかに、ぼわんと影を見せる。これはっ! と羽をつまんでばばっとスマホにその片言を記しても、身体の紅潮がさめたあと、メモアプリに残された言葉からは結局何も始まらない。 ・ ・ ・ 小さいときから書くことが好きだった。好きだと思いすぎて、「書…
当番ノート 第55期
貧困なんて遠い世界のお話だったタワーマンション育ちの私は、現在顔馴染みの警備員の代わりにクモが玄関先の天井から挨拶してくれる木造アパートに住んでいる。 ミネラルウォーターを買うのが怖いのでケトルでお湯を沸かして、100均で買ってきた水差しに注ぎ、冷蔵庫で冷やす。引っ越してからしばらくはケトルなんて文化的なものもなく、鍋で沸騰させていた。3日も経てば完全にその味に飽き、白湯が甘いなんて大嘘だ、そんな…
当番ノート 第55期
何気なく放った言葉も、ふと目があったお散歩中の犬も、受け取り方が難しかった出来事も、生きることについて考えてみた日も、ただお茶が美味しかった瞬間も、ぜんぶぜんぶ「角度」をもっている。 そのときの自分に”それ”がどんな角度をもって入ってきたのか、そのときも、振り返っても、なかなかわからないものなのかもしれない。鋭い角度だと感じたことも、何かと混ざってクロスステッチみたいに新しい模様を描くのかもしれな…
当番ノート 第54期
黄色の増殖に最近気づいた。 去年の春は、レモンイエローのネイルばかりしていたし、秋にはターメリックのネイルを買った。どちらももうだいぶ減っている。そしてこの間、からし色のセーターも手に入れた。 レモン、ターメリック、からし。黄色は食べ物の名前で構成されているらしい、と思ってはたと気づいた。 名前がある。 当たり前だけど、意識していなかった。名前が違うのは、「黄色」という枠でくくられていても、それぞ…