長期滞在者
先週末のこと、ベルギーの西端にあるトゥルネーという町で、日本関連のイベントに参加していた友人から連絡があり、その翌日に企画されていた茶道のデモンストレーションをやる予定だった人が急にキャンセルしてきたので、その穴埋めを頼まれた。キャンセルしたその人はぼくの知人でもある茶人なのだけど、ぼくは茶道なんてちゃんと学んだこともないし、そういうちゃんとした人の穴埋めなんてできないと最初は丁重にお断りした。そ…
当番ノート 第41期
知り合いのダンサーが引退したと聞いた。 まだ30代になったばかりだったと思うけれど、身体が持たないらしい。 彼はバレエの先生になると聞いた。 それを悲しそうに話したらしい。 悲しみのさきに 幸せがあるのだろうと友人が言った。 人生とはなんだろう 悲しいこと 残念なこと 嬉しいこと 楽しいこと そのさき そのさき ウィーンからブカレストへの電車の中より
当番ノート 第41期
1つの路線の終着駅というのは、そこで行き止まりという訳ではなく、むしろその先のもっと広い世界に開かれているような感じがしてわたしは好きだ。 大阪メトロ堺筋線の終着駅、天下茶屋(てんがちゃや)もわたしにとってはそういうまちで、改札を出て真向かいの南海線に乗り換えると、特急で関西国際空港に行けるというのがそのイメージに拍車を掛けている。 天下茶屋というまちの名前は、かつて豊臣秀吉が、住吉大社参詣の折に…
メニハ ミエヌトモ
発酵生活の道にハマっていったのは 実は「自ら」というより娘の存在が大きい。 娘がいなかったら、発酵の世界にここまで入り込まなかったのかもしれない。 まるで「首根っこを掴まれてヒョイとこの世界に放り込まれた」、 どちらかと言えばそんな表現がぴったりだ。 不思議だけれど。 そもそも発酵との最初の出会いは 子育て中によく遊びに行っていた施設で天然酵母パンの教室があり、 しかもその告知のチラシには「酵母お…
長期滞在者
先日、体調が悪くて横になっていたとき、何気なく、スマホでfacebookを開いてみた。普段頻繁にチェックしているわけでもないし、ましてや投稿することも滅多にない。少し邪かもしれないけれど、facebookは一方的に近況報告ができるし、細かな説明が省けるから、遠くブラジルに暮らす家族への近況報告に都合がいいのだった。特に、対話を避けたいわたしにとっては、ちょうどいい距離感を維持できる方法なのだ。 …
長期滞在者
良いエッセイは、読むと読者の中に著者の像がしっかりと立ち上がってくる。 寺尾紗穂さんの『彗星の孤独』も、そんな一冊だった。 寺尾紗穂『彗星の孤独』(スタンド・ブックス) 『彗星の孤独』は音楽家であり、文筆家でもある寺尾さんが身の回りのことを綴ったエッセイ集だ。書き下ろしもたくさんあるけれど、これまでに雑誌や新聞で発表されたものや、自身のオフィシャルブログから収録されたものもある。書かれた時期も媒体…
当番ノート 第41期
ドンキホーテの公演が9月の終わりにあった。 今シーズン最初のバレエの公演。 スペインを舞台にした若い男女の恋物語。 明るくコメデイの要素も強い作品。私たちの劇場ではいつもとても盛り上がる演目の一つだ。 一度この演目の公演の時に、中高生団体が2階席にずらっといて、ものすごく盛り上がっていた。 この国では中高生が休みの日にみんなでバレエを観にくる。舞台芸術が浸透していることを感じ感動した。 日本にはこ…
当番ノート 第41期
連載の初回に書いた通り、主には付き合っていた男と別れるために東京を出てきたのだが、京都に住んでいた2年の間にも多少のやりとりはあった。大阪に移ることを話すと、ミナミで青春を過ごした彼はちょっと嬉しそうで、やがて「必ず足を運んでおくべき店リスト」が送られてきたのだった。 この「店」というのはすべて飲食店で、彼が満を持して推す店が10軒ほど並記してあった。 突出した部分と欠落した部分を極端に兼ね備えた…
ギャラリー・カラバコ
満月の夜を指折り数えるのが習慣になった。 いったい誰がこのギャラリーの鍵をわたしに届けているのかわからない。 待ち構えてそれを突き止めようとは思わない。 夜なのにそこここに影が落ちていて、私はそれをざぶざぶとかき分けながら進む。 ほとんど息を止めて、わたしはギャラリーの扉を開ける。 〈前回までの展示〉 『縫い目』 『つむじ』 『鏡』 『耳鳴り』 — 「植物園」 絵: 古林希望 文: カマウチヒデキ…
当番ノート 第41期
人と関わるということ それを教えてくれた友人がいる。 この人との出会いで私は 人との関わり方が大きく変わった。 何かを得るための関係ではなく ただ一緒に過ごす時間の大切さ 目の前にいる人を受けとめ その主張より 真ん中を見る 許し 寄り添う 毎日の小さな選択こそが自分を作り この世界を作っている大きな選択になること 人生とはなんだろうと思いながら生きる この広い世界の小さな自分 長年の関わりの中で…
長期滞在者
秋という季節が苦手だ。 夏、それも焼けるように熱い夏が大好きなので、数ヶ月ぶりに長ズボンをはいたお盆過ぎの雨の日や、ふと、太陽の力が弱いなと感じる9月の終わり頃や、10月に入って、朝晩の冷気に長袖をひっぱりだしてくるときなんかに、ああ、今年の夏ももう終わってしまったか……と悲しい気分になってしまう。1ヶ月前はこの時刻でもまだ明るかったのに、と思い出して、暮れゆく灰色の陽を必死に目で追いながら、憂鬱…
当番ノート 第41期
わたしが現在住んでいる家は、梅田からも徒歩圏内なのだが、他にも3つの駅に歩いていける立地にある。 大阪のまちはコンパクトで動きやすい。京都もコンパクトだと言われるが、市内の電車移動の利便性で言うと、大阪に分があるように思う。 1km四方にメトロの駅が4つほどあるので、例えば人と会って解散するとき、「わたしはあっち、あなたは?」という会話が自然に発生する。それぞれが、自分のいちばん便利な路線まで少し…