当番ノート 第40期
20代後半…だからもう5年以上前になる。 30代を目前にして、結婚しはじめる友人たちを見ながら、わかりやすく焦っていた。 あれからもう5年以上経つのだなと思うと本当に早い。 振り返るときだけ時が過ぎる早さを感じるなんて、ずいぶん都合のいい話だけれど。 わたしは女性としての自信のなさに拍車がかかって「モテなければ」と思っていた。 そこであれこれ検索していると、どうやら「モテコスメ」というものが存在す…
お直しカフェ
私はカフェが好きだ。予定のない日にひとまずパソコンと本を持って向かうカフェも好きだし、出かけた先で一休みに入るカフェも好きだ。一人で行く馴染みのカフェも好きだし、気心知れた友人と一緒に古ぼけたお店に突撃して、とりあえずのコーヒーとナポリタンを頼んでみるのも好きだ。カフェと一口に言うけれど、世界中にあるチェーンのコーヒーショップも好きだし、住宅街の陰気な喫茶店も好き、田舎の幹線道路沿いにあるカフェ&…
当番ノート 第40期
歩いていると、こぽこぽと、頭に言葉がわいてくる。 歩きながら書くのは危ないし、かといって、それら全てを書き留めようと何度も立ち止まるのは途方も無い。なんとなく勿体無いな、という気持ちはあるのだけれど、目的地の方を優先させてしまって、言葉を後へ後へと流してしまう。 そうして、歩き終えたら、跡形もない。 どうなんだろう、この夏に。 いつも「わかりやすさ」とか「伝わるかどうか」とか、余白の中にそういうも…
長期滞在者
サッカーのW杯がフランスの優勝で幕を閉じた。 日本戦で奇跡的な逆転勝利をもぎ取ったベルギーが 彼らに準決勝で負けたのはとても悔しかったが、 フランスは巧妙な戦術と正確な技術とで最後まで着実に勝ち続けた。 決勝戦があったのは7月15日。 ぼくはもともとその前々日からパリに滞在する予定があり、 その翌日の14日がフランス革命記念日に当たっていて、 初めてのパリ祭をのんびり満喫する予定にしていたので、 …
当番ノート 第40期
日本各地で古くより継承されてきた民俗芸能は現代を生きるわたしたちにとって、もはや無用の長物なのでしょうか? 開国以降の西洋に習う国策、敗戦以後の民主主義化や高度経済成長などの社会構造の変化を起因として、多くの民俗芸能がいま断絶の危機にあります。…と聞くと「何百年前の開国に何年十年前の敗戦にと、そんな過去の出来事がなんで現在の民俗芸能の存続に関係するのか?」と疑問を抱かれるかもしれません…
当番ノート 第40期
「絵を描きたい気持ちがコロコロと丸まって、小さな犬コロみたいになって坐っている。」 これは日本の前衛美術家・赤瀬川原平によるあるエッセイ(※1)の書き出し。 いわく、この犬コロはふわふわして、トロンとして、とってもさわり心地がいいらしい。 同級生・荒川修作の大胆な絵の具の使い方の話から、光を獲得した印象派による喜びにあふれた筆触の話、デパートで催されていた展覧会での「タッチ不在」の絵について…… …
当番ノート 第40期
あそび【遊び】 ①遊ぶこと。遊戯。 ②猟や音楽のなぐさみ。 ③遊興。特に、酒色や賭博をいう。 ④あそびめ。うかれめ。遊女。 ⑤仕事や勉強の合い間。 ⑥(文学・芸術の理念として) 人生から遊離した美の世界を求めること。 ⑦気持のゆとり、余裕。 ⑧機械などの部材間・部品間に設ける隙間。 あそ・ぶ【遊ぶ】 日常的な生活から心身を解放し、 別天地に身をゆだねる意。 神事に端を発し、 それに伴う音楽・舞踊…
当番ノート 第40期
疲れと眠気でしょぼしょぼした目で家のポストをのぞくと、ジュエリーショップからカタログが届いていた。クリーム色の紙に、やわらかな写真が載った表紙。 そこは、確かにジュエリーショップではあるものの、あまりその言葉は似つかわしくないお店だと思う。 カフェのようなほっと呼吸のできる感覚も、旅をしながら何気ない草花を写真に収めたような雰囲気もある。 「ジュエリー」という言葉の持つギラギラした印象がない。 な…
長期滞在者
今年で、日本で生活を始めて通算24年になる。私の短い人生の大半は、この国での生活が占めている。少し気が早いけれど、12月に切れるビザの更新のために、心の準備を始めないといけないなと思うような時期にさしかかってきた。 外国人として、この国に生きる以上、わたしにはビザの更新というdutyがつきまとう。もう、子どもの頃からなんども経験していることで、慣れっこではある。手続きだって慣れたもんだし、これまで…
当番ノート 第39期
こんにちは。 今年の夏は去年と比べ物にならないくらい暑いですね。この記事を書いているのは夜の22時なのですが、未だ気温は30度です。ノートパソコンのHDDが発する熱がいっそう手を汗ばませます。ここ数日は水道をひねっても冷たい水がいっこうに出てこなくて、お湯みたいな水で手を洗っています。まだまだ暑い日が続きそうですね。 今日でこの連載もおしまいです。2ヶ月というと長いようで、意外とあっという間でした…
当番ノート 第39期
久しぶり。 今はどこにいるのかな? こう聞くのもいつもどこか僕の知らない場所にいて、 一つにとどまることがないからね。 どこかで目を輝かせながら、 毎日過ごしているところを 想像しています。 僕はといえば、酷暑の東京にある自宅で、 フィッシュマンズを聴きながら、 この手紙を書いています。 東京の夏は過去に類を見ないほど毎日暑くて、 「命に関わるほどの暑さ」とも言われてるよ。 この間ソフトクリームを…
ギャラリー・カラバコ
ポストに入っていた鍵を握りしめて、部屋を出る。 風がわたしの息をふさぐ。 路地の灯りに照らされた私の影と、街路樹の影が、長く道の先で交わりながら踊る。 あ、そうか。 今日は満月なんだな。 満月のひかりは、満月の前の日や満月の次の日のひかりと、どうしてこんなにも存在感が違うのだろう。 「ギャラリー・カラバコ」の扉をそっと開く。 そこには、前回の『縫い目』とは違う作品がかかっていた。 — 「つむじ」 …