当番ノート 第40期
あそび【遊び】 ①遊ぶこと。遊戯。 ②猟や音楽のなぐさみ。 ③遊興。特に、酒色や賭博をいう。 ④あそびめ。うかれめ。遊女。 ⑤仕事や勉強の合い間。 ⑥(文学・芸術の理念として) 人生から遊離した美の世界を求めること。 ⑦気持のゆとり、余裕。 ⑧機械などの部材間・部品間に設ける隙間。 あそ・ぶ【遊ぶ】 日常的な生活から心身を解放し、 別天地に身をゆだねる意。 神事に端を発し、 それに伴う音楽・舞踊…
当番ノート 第40期
疲れと眠気でしょぼしょぼした目で家のポストをのぞくと、ジュエリーショップからカタログが届いていた。クリーム色の紙に、やわらかな写真が載った表紙。 そこは、確かにジュエリーショップではあるものの、あまりその言葉は似つかわしくないお店だと思う。 カフェのようなほっと呼吸のできる感覚も、旅をしながら何気ない草花を写真に収めたような雰囲気もある。 「ジュエリー」という言葉の持つギラギラした印象がない。 な…
長期滞在者
今年で、日本で生活を始めて通算24年になる。私の短い人生の大半は、この国での生活が占めている。少し気が早いけれど、12月に切れるビザの更新のために、心の準備を始めないといけないなと思うような時期にさしかかってきた。 外国人として、この国に生きる以上、わたしにはビザの更新というdutyがつきまとう。もう、子どもの頃からなんども経験していることで、慣れっこではある。手続きだって慣れたもんだし、これまで…
当番ノート 第39期
こんにちは。 今年の夏は去年と比べ物にならないくらい暑いですね。この記事を書いているのは夜の22時なのですが、未だ気温は30度です。ノートパソコンのHDDが発する熱がいっそう手を汗ばませます。ここ数日は水道をひねっても冷たい水がいっこうに出てこなくて、お湯みたいな水で手を洗っています。まだまだ暑い日が続きそうですね。 今日でこの連載もおしまいです。2ヶ月というと長いようで、意外とあっという間でした…
当番ノート 第39期
久しぶり。 今はどこにいるのかな? こう聞くのもいつもどこか僕の知らない場所にいて、 一つにとどまることがないからね。 どこかで目を輝かせながら、 毎日過ごしているところを 想像しています。 僕はといえば、酷暑の東京にある自宅で、 フィッシュマンズを聴きながら、 この手紙を書いています。 東京の夏は過去に類を見ないほど毎日暑くて、 「命に関わるほどの暑さ」とも言われてるよ。 この間ソフトクリームを…
ギャラリー・カラバコ
ポストに入っていた鍵を握りしめて、部屋を出る。 風がわたしの息をふさぐ。 路地の灯りに照らされた私の影と、街路樹の影が、長く道の先で交わりながら踊る。 あ、そうか。 今日は満月なんだな。 満月のひかりは、満月の前の日や満月の次の日のひかりと、どうしてこんなにも存在感が違うのだろう。 「ギャラリー・カラバコ」の扉をそっと開く。 そこには、前回の『縫い目』とは違う作品がかかっていた。 — 「つむじ」 …
長期滞在者
山内マリコ『選んだ孤独はよい孤独』(河出書房新社) 山内マリコさんの小説は、いつもタイトルが素晴らしい。 『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』『さみしくなったら名前を呼んで』……。どれも初期の作品だけど、耳に残る七五調で、短歌のように数文字で作品世界の色合いがしっかりと喚起される。 『選んだ孤独はよい孤独』というタイトルも、この初期の作品たちと同種のリズムを備えている。 でも、浮か…
当番ノート 第39期
抱きしめられるのが、恐ろしく下手だった。 下手ぶりを説明しようにもサンプルが異様に少ない人生なわけだが、とりあえず初めての恋人から「第1回・抱擁」をしかけられたときも、私は非常に緊張していた。 どのくらい緊張していたかというと、向こうが私のあまりのガチゴチぶりに、腕を離して「ウーン、こんなに固くなってる人は初めて見た……」と唸っていたほどであった。 私の記憶では、交際から2、3ヶ月経っても…
当番ノート 第39期
「魂に触れる」 谷川俊太郎 軽いやわらかい毛布の下に 恋人のあたたかいからだがあって ふたりは手をつないで仰向けに横たわっている ふたりの目は白い天井に向けられていて どこにも焦点をむすんでいない モーツァルトのケッヘル六二二のクラリネット協奏曲 第二楽章アダージョが聞こえている初秋の午後 若い彼らは完璧な幸せがもたらす悲しみに それと気づかずに浸っている 「昨日またサリエリに会ったよ」と男が言う…
長期滞在者
目の前の暗い地面から潜水艦のようにせり上がった黒い小さな楕円体が急に地面からちぎれて駆け去った。 あわてて自転車をとめて行方を目で追うと、小さな小さな黒猫だった。 あまりに小さいので猫らしくなくて、まるで機械仕掛けの偽猫のようだったが、地面からちぎれて出現したのと同じように、道路脇の茂みに溶けて消えた。 ◆ 新撰組の沖田総司が肺結核で隊を離れ、知り合いの植木屋で療養生活を送っていたとき、庭に毎日黒…
当番ノート 第39期
「いや、ほんとにあんな好青年は見たことがない」とサー・ジョンがくり返した。「去年のクリスマスに、うちで小さな舞踏会を開いたときも、午後八時から午前四時まで踊って一度も腰をおろさなかったんだ」 「えっ、ほんとに?」マリアンが目を輝かせて言った。「最後まで優雅に元気よく?」 「もちろん。しかも朝八時に起きて、馬で狩猟に出かけたんです」 「私、そういうの大好きよ」とマリアンが言った。「若い男性はそうでな…
長期滞在者
今では遠く離れた友人知人のことも、SNSのおかげで距離を感じさせることなく近況を知ることになり、実際に久し振りに会う人でも、あんまり久し振りの感じがしなかったりする。20代の頃、高い遠距離通話料金が払えなくて、いつ来るかわからない地元の友人たちの手紙がポストに届くのを、気長に待つのが辛うじての交流という時代を経験した身からすると、どちらかといえば便利な世の中になったと思います。先日もタイムラインで…