山中湖のほとりで、バスで出会った女の子と。

それをエンジェルと呼んだ、彼女たち。

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彼女は山中湖行きの高速バスで隣の席に座っていた。
大きなバックパックを携えたアジア系の可愛らしい女の子は目的地に着く約2時間ほどのあいだイヤホンで音楽を聴いていたから、私たちは黙って隣あっていた。だけど最後のほうで彼女から降りるべきバス停について尋ねられたことをきっかけにお互いの名前を知った。彼女はマカオから初めて日本を訪れていると言う。

GWで賑わうなか、私たちはどちらもひとり旅だった。バスを降りる直前、「もっと早く話しかければよかったね」と言い合いながら連絡先を交換した。会えるのは今回の旅じゃないかもしれないけど、また会えそうな気がしたから躊躇はなかった。結局、私たちは早々に再会した。もしよかったら明日山中湖で一緒に過ごさない、と彼女から早速メッセージをもらってふたつ返事を返した。もともとゆっくりするつもりでなにも予定していない気楽な旅だったから、困ることは何もなかった。もしかしたらこういう偶然の出会いを無意識に期待していたのかもしれない。

今回の小旅行で私が体験した特別な出来事のひとつが彼女と出会ったことで、もうひとつは素敵な宿との再会だった。

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今回2泊したのは山中湖が目の前に広がる素泊まりの宿「ホトリニテ」。今回が2度目の滞在で、前回泊まってから1ヶ月半ほどしか経っていなかったけれど、オーナーがすごく親切で宿も古いのにとても綺麗で行き届いていることに感動し、(素敵な図書スペースと完璧な縁側まである。)、すぐにまた訪れたくなってしまった。そして、この時点でお気づきの方もいるかもしれない。今回の滞在中に発覚したのだけれど、オーナーの高村直喜さんはここアパートメントの当番ノート第11期生、つまり同じアパートメントの先輩だったのだ。まさか!と思ったけれど、やっぱり!という気持ちで「えー!」と言っている私がいた。こういう答え合わせのような出会いは大好き。

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前回の宿泊時もちょっとしたトラブルがあり、快く臨機応変に対応していただいた経緯があったのだけれど、今回も高村さんのおもてなしは神がかっていた。そんなエピソードをひとつ。

マカオの彼女が山中湖でしたいことは「温泉に入ること」だった(ただ彼女には合計で9つの小さなタトゥーがはいっていた)。はるばる一人で山中湖まできている彼女の唯一のリクエストはどうにかして叶えてあげたい!けれどタトゥーがネックで見つけられずにいた。外国のお客様の多いホトリニテの高村さんならもしかしていい場所を知っているかもしれない、とチェックイン早々相談してみた。山中湖村育ちの高村さんはすぐに「とても頼りになるアドバイス」をくれて、おかげで翌日彼女を温泉デビューさせてあげることができたのだ。

表面上だけのことでない高村さんの親切さは、訪れる人たちの旅をひときわ意味のあるものとして感じさせてくれる。たぶん日本という国のイメージさえも高めてくれている。宿もシンプルながら感動に値する心地よさなので、ぜひ一度は訪れてほしいなと思う。

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そんな高村さんのおすすめもあって、翌日の彼女との山中湖観光はレンタサイクルで山中湖を一周し、途中「パノラマ台」と呼ばれる絶景スポットに立ち寄り、帰り道にあたる美味しいと噂のラーメン屋さんでお昼を食べて、温泉に入るという完璧としか言いようのないプランになった。結果的にすべてこなしたのだけど、予定どおりと言うのには程遠い、彼女と私にとっては大変なアドベンチャーになったのだけれど。

まずレンタサイクルに乗り気だった彼女は、乗ってみると自転車が苦手だった。これから山中湖を一周しよういうのに1/8くらいの距離まで行くのに1時間掛かってしまって、途中からこれは夕方までに一周できないのではと内心すごく焦った。誰かを連れ立っているときに予定通りいかないと心がザワついてしまう私だけれど、彼女はずっと楽しそうで、結局パノラマ台にたどり着いたときにはスタートからすでに3時間ほど経過していたけれど、その間たっぷり日本での旅行のことやマカオや香港のことを(頻繁に自転車を一時停車してiPhoneで写真を見せてくれながら!)話してくれた。リラックスしている彼女を見て、今日の予定が例えどれか未達成になってしまっても、楽しければよかったんだよねと思い直したりした。

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やっとたどり着いたパノラマ台は、私たち以外全員バイクか車で来ている人たちだった。自転車と言っても「ママチャリ」だった私たちのことをそこに居合わせた見知らぬ人たちが褒め称えてくれて驚いた。道中何度か「高村さん、そこまで道のりきつくないですよって言っていたのに結構きつい」と内心思ったりもしたけど、やっぱりそれなりの運動量だったようで変にほっとした。

パノラマ台でカメラの玄人らしきおじいさんに今度は誘われるまま、さらなる高台をハイキングすることになった。彼女コンバース、私カフェに行くみたいな革履。おじいさんは玄人なので登山用の靴に履き替えてグングン先頭をきって行く。私たち必死について行く。おじいさんあっと言う間に見えなくなる…。

十分な装備もないまま水をシェアしながら、それでも彼女と私は小さな山を登りきった。そこから眺める富士山も山中湖も、湖畔からは想像できないくらいに綺麗だった。それ以上に登り切った時に自然とした彼女とのハイタッチが嬉しくて、友達になった瞬間があるとしたらそのハイタッチの瞬間だろうなと私は思い返す。秋にはススキが美しいというこの場所には、次こそ万全の靴で訪れたいなと思っている。

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パノラマ台をあとにしてもまだ湖半週ほど残っていること、お昼の時間をとっくに過ぎていることでクタクタだったけれど私たちは前半よりもさらに陽気だった。ラーメン屋さんを目指して、前半よりもずっと自転車が上達した彼女と初夏のような日差しのなかサイクリング。おとといまで知り合ってもいなかった彼女と一緒に旅行しているのが楽しくて、日本なのに海外にいるように新鮮だった。彼女の素直さが私にまで伝染しているようだった。

ラーメン屋さんで初めてのつけ麺を頼んだ彼女が、お店側がすすめている「つけ麺の食べ方(1.麺だけ食べる 2.調味料を少しつけて麺だけ食べる 3.汁に『半分だけ』つけて食べる…)」を忠実に実行するのがとても可愛かったことを特筆しておかなくてはいけない。彼女は終始かわいい人だった。

その日の最後、温泉の露天風呂で話をしていたとき、彼女は今回の旅行のきっかけを話してくれた。これから前向きに生きるために気持ちに区切りをつけなければいけない恋愛が、ちょっと前に終わったという打ち明け話だった。私と同じで彼女もひとりで旅をするのが好きで、それはこうやって新しい友達ができて世界を「四角ではなく丸く」感じられるからだと言っていて、私も同じ理由でひとり旅が好きなので心からこの旅が彼女の心を元気にしてくれることを願った。そして私もその一部に参加できたなら、それは私のことをも癒してくれる出来事のような気がした。

温泉は国籍を問わず「ほんとうのこと」を話したくなってしまう面白い場所だと思う。久しぶりに会う友だち同士のような気持ちで「のぼせちゃうね」と言いながら温泉から上がって急いで支度をし、宿に戻る彼女をバス停まで見送った。その夜、ひとりに戻ってほとんど満月の夜の湖畔を歩きながら音楽を聴いていたときに突然、「ひとりじゃない感」と「ひとりである自由感」のどちらもがこの瞬間手のなかにある気持ちがした。そのことがスキップするくらい嬉しくて、温かかった。

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どちらも必要だけどなかなか同時に感じることは難しい。心に良く作用するそんな旅を、久しぶりにできたと思った。マカオの彼女と、静かで美しい山中湖とホトリニテ。短い旅を終えてみて、予想外のめぐり合わせに感謝している。